今日も推しが尊いので溺愛は遠慮いたします!~なのに推しそっくりな社長が迫ってきて!?~
夜のパーティーは六時から二時間。

時間どおりにきっちり終わったおかげで、芽衣子は九時前には自宅に帰り着くことができた。サッと夕食を済ませてシャワーを浴びて、今夜こそは早く寝ようと思っていたところで……スマホに着信があった。

相手は実家の母だった。芽衣子の実家は神奈川県の横須賀市。東京に通勤するには少し遠いので、就職を機にひとり暮らしを始めたのだ。

実家の両親はふたりとも美容師で、二階建ての雑居ビルを借りてヘアサロンを経営している。地元ではそれなりに人気のある店だ。

「はい、もしもし」
『芽衣子? ごめんね、ちょっと相談があって』

いつも明るく楽天的な母にしては珍しく声が沈んでいた。

「なにかあったの?」

母の悩みは仕事のことだった。ヘアサロンの場所として借りているビルのこと。長く世話になったオーナーが数か月前に亡くなったことにともない、ビルの所有者が変わったそう。新しくオーナーになった人物が曲者らしい。

『急にお家賃を四割も値上げする、払えないなら出ていけと言うのよ』

前のオーナーはあまり商売っ気のない人で、たしかに両親の店の家賃はあのあたりの相場と比べたら安いほうだったと思う。けれど現在の家賃は契約で定められたものだし、そもそも四割増しは横暴すぎるだろう。

芽衣子はそう冷静に主張したけれど、母の声は晴れない。

『次の更新時にあらためて相談しましょうってお父さんも言ったんだけど、全然聞く耳を持ってくれなくて』

新しいオーナーは不動産会社を経営する社長らしいが、『ずいぶんと強引な商売をする』と地元でもあまり評判はよくないそう。 

『四割増しのお家賃じゃ働いてくれている子にお給料を払えなくなっちゃうわ。かといって移転というのもね。ヘアサロンは地域密着の商売だから、立地は本当に大事なのよ』

なにより両親とも、今の店に愛着がある。そう簡単にじゃあ違う場所で再出発なんて気持ちにはなれないようだ。

「契約で決まっていることだもの。なにを言われても気にすることないよ」

母を安心させるためそう言い切ったけれど、頭の片隅に不安がよぎる。

(でも、向こうだってそれはわかっているはずよね。手荒なマネをされてお客さんに迷惑がかかったら困るな)

「わかった。こういうケースにどう対応すればいいのか、私のほうでも調べてみるよ」
『ありがとう』
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