今日も推しが尊いので溺愛は遠慮いたします!~なのに推しそっくりな社長が迫ってきて!?~
芽衣子の会社は不動産関係。似たような事例を調べることはできるはず。母もそう思ったから芽衣子に相談してきたのだろう。

「理衣子と違って私はお店には貢献できないから。せめてこのくらいはね!」

手先の器用さもオシャレなセンスもない芽衣子は両親と同じ道は選ばずに会社員になった。でも妹の理衣子は両親の店を受け継ぎたいと美容師になっている。今は都内のサロンで修業しているけれど、いずれは地元に戻るつもりでいるようだ。両親の店は芽衣子にとっても思い出の詰まった大事な場所。できればそのまま残したい気持ちはある。

『契約とかそういう話は私たちより芽衣子の方が詳しいから助かるわ』

幾分か安心してくれたようで、母はいつもの明るい調子を取り戻した。

母はお喋りでよく笑う人。理衣子は母似で、芽衣子はどちらかといえば寡黙な父に似ている。だから母と話すとき、芽衣子はたいてい聞き役だ。「うん、うん」と相づちを打っているうちに話の雲行きが怪しくなってきた。

『でもさ、芽衣子ももう二十八歳でしょ。どうなの、恋人とか結婚は!』
「う、う~ん。私はそんなに焦らなくてもいいかなって思ってるんだけど」
『今どきはそうなのかもしれないけど、やっぱりいざというときに支え合える人がいるのはいいものよ~』

先延ばしにせず人生プランをきちんと考えなさいね。最後にそう釘を刺して、母は電話を切った。

(先延ばしかぁ)

正直、痛いところを突かれたとは思う。

誰かと一緒に生きる道も、自分ひとりで生きていく道も、芽衣子はまだどちらも真剣に考えたことはなかった。まだ慌てる年じゃないからと、後回しにしていただけだ。

芽衣子は小さなため息とともに、スマホをテーブルの上に置く。
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