敵将の寵姫 ~結びの夜に咲く恋~
「黒田の軍に立ち向かえるように、風間との連携を強化せねばな」

父の声が、凛とした空気に響く。

風間――私の許婚、風間 宗真様。

その名を耳にするたびに、少しだけ胸が高鳴った。

「やっと雪が解ける頃だ。婚儀も近いな」

父の言葉に、私は思わず笑みを浮かべる。

まだ一度もお会いしたことはない。けれど、文に記されるお人柄は穏やかで誠実で、戦の才にも長けたお方だと聞く。

私はそんな方の妻になるのだ。

白露城を出て、新たな土地で新たな家を築く――

そう思うと、知らず知らずのうちに胸が弾んでいた。

幼い頃から政の駒として育てられた私にとって、婚儀は運命。拒む理由などない。

むしろ、その先に穏やかな春が待っていると信じていた。

……まさか、その春が、戦火と共に崩れ去るとは思いもせずに。
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