契約母体~3000万で買われた恋~
私たちは、ホテルの一階にある落ち着いた雰囲気のレストランに立ち寄った。

照明は控えめで、店内は穏やかな音楽が流れている。

けれど私の鼓動だけが、やけに大きく響いていた。

「真壁から、聞きました。」

テーブル越しに、彼女――麻里さんが切り出した。

「……あの、何を……ですか?」

問い返す声が、少しだけ震えた。

「あなたが、真壁に想いを寄せていることを。」

その言葉に、身体が硬直した。

まさか、そんな話を……。私の知らないところで、ふたりがそんな話をしていたなんて。

「安心して。責めたいわけじゃないんです。」

麻里さんは、微笑みを崩さぬまま、ゆっくりとグラスに口をつけた。

「そこで――ひとつ、提案があるんです。」

「……提案?」

「ええ。あなたが、真壁を本当に大切に思っているのなら……」

一瞬だけ、彼女の声が震えた。強い人だと思っていた。でも、その強さの裏に、何か切実なものが隠されていた。

そして、次の言葉が静かに放たれる。

「真壁の子供を――産んで貰えませんか?」

グラスを持つ手が止まり、私の時間も止まった。
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