契約母体~3000万で買われた恋~
それからしばらくして、仕事を終えて会社のロビーに向かうと、目の前でふと誰かに呼び止められた。

「あなたが、里村理央さんですか?」

振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。

整った顔立ちに、洗練されたスーツ。品のある所作と、揺るぎない視線。

「はい……私ですけど。」

女性は微笑みながら名乗った。

「真壁の妻です。」

――えっ。

思わず息を呑んだ。

真壁課長の、奥さん。

「……あの、私と課長は、別に何も……」

言い訳のような言葉が、思わず口からこぼれ落ちた。

けれど、彼女は穏やかに頷いた。

「ええ、知っています。今は、何もないわよね。」

柔らかな笑顔。けれど、その奥にある冷たい湖面のような光に、私は言葉を失う。

「少し、お話しませんか?」

断れるはずがなかった。まるで、あらかじめすべてを知っている人のように、彼女は私を見つめていた。
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