契約母体~3000万で買われた恋~
「えっ?」

思わず、わざとらしいほど間の抜けた声が漏れた。

けれど、それでもよかった。

時間が止まってしまった頭では、他に何を返していいか分からなかった。

「何を言っているのか……正直、分からないんですけど。」

テーブルの端に置いた手が、じんわりと汗ばむ。

麻里さんは微笑んだまま、もう一度はっきりと告げた。

「真壁の、子供を産んで欲しいんです。」

ああ――この人は、本気だ。

その一言で、背筋が冷たくなる。

「どうして……?」

ようやく絞り出した言葉に、麻里さんはグラスを置いた。

「私たちは、結婚して十年。でも、子供ができないんです。検査の結果、私の身体に原因があることがわかりました。」

一語一語、感情を抑えるように丁寧に話すその姿から、長年抱えてきた痛みが滲んでいた。

「でも……子供を諦めるつもりはありません。」

彼女の瞳が、まっすぐに私を見据える。

「あなたなら、きっと真壁の子供を大切に育んでくれると思ったから。」

言葉が続かない。理解できない。

でも――逃げられない気がした。
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