契約母体～3000万で買われた恋～
すると突然、レストランの入り口がざわめいた。

「真壁課長……？」

思わず立ち上がりかけた私の視線の先に、スーツの襟を緩め、息を荒げた真壁課長が立っていた。

どうしてここに……？

課長はすぐに私たちを見つけ、まっすぐこちらへ歩いてきた。

麻里さんの隣に腰を下ろすと、険しい目で妻を見つめる。

「君は……何を考えているんだ。」

感情を押し殺した低い声。けれど、明らかに怒っていた。

「彼女とは何もない。俺は、彼女に手なんて出してない。だから、話すことなんて何もないはずだ。」

――そう。課長は、奥さんが“浮気を疑っている”と思って来たんだ。

私と課長の間に何もないことを、誤解されたくなくて必死に伝えてくれている。

でも――

「そういう話じゃないわ。」

麻里さんが、静かに口を開いた。

その一言に、空気が張りつめた。

「私が彼女にお願いしたのは……あなたとの不倫の話じゃないの。もっと大切なことよ。」

課長が眉をひそめた。そのとき初めて、彼の中で“何かが違う”と気づいたようだった。
< 12 / 51 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop