契約母体~3000万で買われた恋~
しばらくの間、真壁課長も私も、この件について一切触れなかった。

あの夜以来、あたかも何事もなかったかのように、日常の仕事に戻った。

――このまま何もなければ、奥様も諦めてくれるだろう。

そんな淡い期待が、どこかにあった。

だが、現実は甘くなかった。

ある日の終業後、オフィスを出ようとした私の前に、また彼女が現れた。

「お久しぶりね。考えていただけました?」

麻里さんの笑みは、相変わらず完璧に整っていた。だが、その奥に確かな圧があった。

「……やっぱり、断るべきだと思います。」

私は絞り出すように言った。

「こんなこと、やっぱり間違いだと思います。」

麻里さんは一瞬だけ視線を伏せ、それから静かに頷いた。

「そう。」

そして、無言で立ち上がる。

その背筋は凛としていて、まるで何も動じていないように見えた。

「じゃあ、別の女性に頼むわ。」

「……え?」
< 18 / 51 >

この作品をシェア

pagetop