契約母体~3000万で買われた恋~
「どこまでできた?」

いつの間にか、真壁課長が私のそばに立っていた。

「ああ、後はグラフの仕上げだけで……」

そう答えると、課長はわずかに眉を上げてから、優しく言った。

「明日でもいいよ。」

――つまり、もう帰っていいということ。

派遣社員には、そこまでの頑張りは求められていない。

そういう空気が、言葉の裏から透けて見える。

「……はい。」

少しだけ胸がざらついた。

すると真壁課長が、静かに私のデスクに視線を落とした。

「ああ、やっぱり頼んでよかった。」

思いがけない言葉に、私は目を見開く。

「ありがとうございます。」

「明日、完成を楽しみにしてるよ。」

「はい。」

そう言って課長が立ち去る後ろ姿を見つめながら、胸の奥がわずかに熱くなる。

“やっぱり頼んでよかった”――その一言が、今日一日の疲れを吹き飛ばした。

明日も、頑張ろう。

たとえ契約が切れても、私はこの気持ちを忘れない。
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