契約母体~3000万で買われた恋~
「私……真壁課長のことが好きです。」

言葉が震えるのを、どうにか押し殺して伝えた。

課長は驚いたように目を見開き、ほんの一瞬だけ、口元を緩めた。

「課長と一緒にいることが、私の希望でした。」

黙ったままの彼に不安を感じかけたとき、そっと腕が伸びてきて、私は抱き寄せられた。

「里村さんの気持ち、嬉しいよ。」

「え……」

思いがけない言葉に、胸が跳ねる。

けれど、次の瞬間、彼の低い声が現実を突きつける。

「でも、俺……既婚者なんだ。」

「知ってます。」

「結婚して、十年になる。子供はいない。でも……それでもまだ、妻を愛してるんだ。」

その一言が、まるで胸を締め付けるように響いた。

わかっていた。わかっていたけれど、それでも、伝えずにはいられなかった。

「そうですよね……すみません。変なこと言って。」

「いや……ありがとう。想ってもらえるって、やっぱり……嬉しいもんだな。」

課長の声は、どこまでも優しくて、どこまでも遠かった。
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