契約母体~3000万で買われた恋~
お昼休憩が終わり、デスクに戻ると、隣の席の女の子――田島さんが、飴玉を一つそっとくれた。

「おかえりなさい。真壁課長とお昼だったんですか?」

「ええ、ちょっとだけ。」

思わず微笑んで返すと、田島さんは嬉しそうに首をかしげた。

「真壁課長、素敵ですよね。落ち着いてて、優しくて……あんな上司、他にいないと思います。」

――やっぱり、この子も課長に憧れているのかもしれない。

心の中でそう呟きながら、私は飴を手の中で転がす。

「でも聞いたんですけど、真壁課長の奥さんって、この会社の重役のお嬢さんなんですって。」

田島さんが何気なく言ったその一言に、思わず手が止まった。

……そうだった。忘れていたわけじゃない。むしろ、ずっと心の片隅で避けていたこと。

その言葉が胸に落ち、冷たい水のように心を濡らしていく。

――私は何を期待してたんだろう。

淡い恋心は、波風を立てて散っていく。

飴の包み紙を開ける指先に、力が入らなかった。

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