契りの花嫁 ~冷たい夫が、私に恋をした日~
背中を向けたまま、私は湯の中で小さく震えていた。

そのすぐ後ろで、湯がざぶんと揺れる音がした。

振り返らずともわかる。圭一郎さんが、湯船に入ったのだ。

――えっ、今、目の前に男の人が……!

想像したこともない状況に、私は頭が真っ白になった。

肌が火照るのは湯のせいだけじゃない。

羞恥で、顔まで湯気のように熱くなる。

そんな私の背に、低く静かな声が落ちた。

「……泣いていたのか。」

バレた。

瞬間、私は息を呑んでしまう。

何も言えず、ただ湯の中で視線を伏せたまま固まった。

「後悔してるか。俺の元へ来たこと。」

ゆっくり、私は首を横に振った。

声は出なかった。でも、はっきりと否定した。

「……なら、よかった。」

圭一郎さんは、それだけ言った。

湯の音だけがふたりの間を満たしていた。

その距離は、背中越しなのに――なぜだろう。
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