契りの花嫁 ~冷たい夫が、私に恋をした日~
そして――

「……子種だ。心配するな。」

圭一郎さんの声が、耳元で落ちた。

私は震えながら、ただ目を閉じていた。

――これは、愛なんかじゃない。

でも、圭一郎さんの声がほんの少しだけ、どこか優しげだった気がしたのは――

気のせいだったのだろうか。


翌朝――

まだ窓の外は薄明るく、朝陽が障子越しにやわらかく差し込んでいた。

私はゆっくりと目を開けた。

隣に、誰もいない。

――圭一郎さんの気配は、もうどこにもなかった。

「……いないんだ。」

小さく呟いたその声は、自分でも驚くほど虚ろだった。

しばらくすると、侍女が音もなく部屋に入ってきて、手桶を静かに置いた。

「おはようございます、お嬢さま。……いえ、奥さま。」

そう言って、優しく頭を下げる。

「圭一郎さんは?」

尋ねると、侍女は穏やかに答えた。

「もうお勤めに行かれました。朝早くに。」
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