傲慢な世界よ、私が壊してあげるわ~公爵令嬢に転生したOLは悪の覇道を突き進む
第130話 ペトロイオの戦い
ラスカ王国軍のファビアン将軍は、中軍の本陣から、眼下に展開する辺境伯軍八千の動きを見下ろしていた。自軍の最前列には、百二十名の入植者たちが「肉の盾」として後ろ手に縛られている。敵が手出しできずに縮み上がり、そのまま十五万の軍勢で押し潰す。ファビアンの脳内では、完璧な包囲殲滅の筋書きが完成していた。
だが、眼下の光景は、その自信を静かに裏切るものだった。
「ん? 動いたのか?」
ファビアンが訝しげに眉をひそめた瞬間、辺境伯軍の最前列が前進を開始した。盾を構えるでもなく、マスケット銃を水平に構えながら、無機質な足取りで距離を詰めてくる。そして、彼らが人質から百メートルの距離に達した時、戦いは唐突に幕を開けた。
「撃て!」
辺境伯軍の号令が響く。直後、轟音が大気を切り裂き、白い硝煙が視界を遮った。放たれた無数の鉛玉は、ラスカ王国軍の兵士や最前面の「人質」たちに容赦なく襲い掛かった。悲鳴を上げる間もなく、百二十名の身体が次々と弾け飛び、崩れ落ちていく。
その凄惨な光景を前に、ラスカ王国軍の将兵たちは唖然として立ち尽くした。味方を、非戦闘員であるはずの同胞を、一切の躊躇なく撃ち殺すとは。
注意深く観察していれば、その「人質」たちのおかしな点に気づくべきだった。集団の中に子供の姿が一切なく、男性の割合が異常に高い。彼らの肌は白く、体つきは脆弱だった。農民の粗末な服を着せられてはいるものの、その手や体躯は、少し前まで贅沢に暮らしていた者のそれだ。
「な、何を考えている……」
呆気にとられたファビアンの唇が震える。事前に取り決めていた包囲の合図など、完全に頭から飛び去っていた。
人質たちが息絶えたのを見届けるや否や、辺境伯軍は一斉に反転し、素早く後退を始めた。その統制の取れた動きは、初めからこの処刑だけが目的であったかのように無駄がない。
「逃がすな! あの狂人どもを一人残らず叩き潰せ!」
怒りと屈辱に顔を歪めたファビアンが声を荒げる。その怒声に突き動かされるように、王国軍の先陣三万が怒涛の追撃を開始した。
だが、辺境伯軍は単に背を向けて逃げているわけではなかった。彼らは三隊に分かれ、後退しつつ、振り返っては一斉射撃を放ち、再び下がり、弾込めをする。この引き撃ちの連携を繰り返した。
硝煙が濃くなるにつれ、追撃する王国軍の先頭集団が次々と地に伏していく。正確に飛んでくる見えない死の恐怖が、先陣の足を確実に鈍らせていた。
「ええい、怯むな! 敵はたかだか八千だ! 数で押し潰せ!」
先陣の指揮官たちが剣を振りかざして部下を鼓舞し、再び追撃の速度が上がろうとしたその時だった。突如、先陣の左右に広がる草むらや窪地から、激しい銃火が噴き上がった。ゲオルクが巧妙に配置していた、各三千ずつの伏兵である。
無防備な側面を正確に撃たれ、王国軍の先陣はパニックに陥った。さらに、その後退していた辺境伯軍の八千がピタリと足を止め、反転攻勢に転じた。正面からの統制された一斉射撃と、左右からの伏兵による十字砲火。三方向からの銃弾の嵐に晒された先陣三万は、またたく間に大きな被害を出し、前進を完全に阻まれてしまった。
「将軍閣下! 先陣が敵の伏兵によって足止めを食らっております!」
中軍のファビアンの元に、血相を変えた伝令が駆け込んでくる。将軍は、硝煙に包まれる戦場を睨みつけ、鼻で笑った。
「伏兵だと? 山ネズミどもめ、小癪な真似を」
彼は戦場の全体像を分析する。先陣は混乱しているが、左右から火を噴いている敵の陣容は明らかに薄い。
「惜しむらくは、あの小細工を支える兵力が圧倒的に少ないことだな。あれでは我が先陣を崩し切ることはできん」
ファビアンは、腰の剣を引き抜き、空へと高らかに掲げた。
「左右の軍、各三万を前進させよ! 側面の伏兵どもを呑み込み、そのまま辺境伯の主力もろとも包囲殲滅するのだ!」
将軍の号令が下ると、地平線を黒く染めていた左右の軍が重々しく動き始めた。六万という絶望的な軍圧が、伏兵たちを粉砕すべく迫っていく。その圧力に押されるように、左右の伏兵たちはあっさりと射撃を止め、慌てて後退を始めた。
「ネズミどもを逃がすな! 包囲殲滅するぞ!」
勝利を確信したファビアンの声が響く。だが将軍が相対している敵の策はこれだけではなかった。
だが、眼下の光景は、その自信を静かに裏切るものだった。
「ん? 動いたのか?」
ファビアンが訝しげに眉をひそめた瞬間、辺境伯軍の最前列が前進を開始した。盾を構えるでもなく、マスケット銃を水平に構えながら、無機質な足取りで距離を詰めてくる。そして、彼らが人質から百メートルの距離に達した時、戦いは唐突に幕を開けた。
「撃て!」
辺境伯軍の号令が響く。直後、轟音が大気を切り裂き、白い硝煙が視界を遮った。放たれた無数の鉛玉は、ラスカ王国軍の兵士や最前面の「人質」たちに容赦なく襲い掛かった。悲鳴を上げる間もなく、百二十名の身体が次々と弾け飛び、崩れ落ちていく。
その凄惨な光景を前に、ラスカ王国軍の将兵たちは唖然として立ち尽くした。味方を、非戦闘員であるはずの同胞を、一切の躊躇なく撃ち殺すとは。
注意深く観察していれば、その「人質」たちのおかしな点に気づくべきだった。集団の中に子供の姿が一切なく、男性の割合が異常に高い。彼らの肌は白く、体つきは脆弱だった。農民の粗末な服を着せられてはいるものの、その手や体躯は、少し前まで贅沢に暮らしていた者のそれだ。
「な、何を考えている……」
呆気にとられたファビアンの唇が震える。事前に取り決めていた包囲の合図など、完全に頭から飛び去っていた。
人質たちが息絶えたのを見届けるや否や、辺境伯軍は一斉に反転し、素早く後退を始めた。その統制の取れた動きは、初めからこの処刑だけが目的であったかのように無駄がない。
「逃がすな! あの狂人どもを一人残らず叩き潰せ!」
怒りと屈辱に顔を歪めたファビアンが声を荒げる。その怒声に突き動かされるように、王国軍の先陣三万が怒涛の追撃を開始した。
だが、辺境伯軍は単に背を向けて逃げているわけではなかった。彼らは三隊に分かれ、後退しつつ、振り返っては一斉射撃を放ち、再び下がり、弾込めをする。この引き撃ちの連携を繰り返した。
硝煙が濃くなるにつれ、追撃する王国軍の先頭集団が次々と地に伏していく。正確に飛んでくる見えない死の恐怖が、先陣の足を確実に鈍らせていた。
「ええい、怯むな! 敵はたかだか八千だ! 数で押し潰せ!」
先陣の指揮官たちが剣を振りかざして部下を鼓舞し、再び追撃の速度が上がろうとしたその時だった。突如、先陣の左右に広がる草むらや窪地から、激しい銃火が噴き上がった。ゲオルクが巧妙に配置していた、各三千ずつの伏兵である。
無防備な側面を正確に撃たれ、王国軍の先陣はパニックに陥った。さらに、その後退していた辺境伯軍の八千がピタリと足を止め、反転攻勢に転じた。正面からの統制された一斉射撃と、左右からの伏兵による十字砲火。三方向からの銃弾の嵐に晒された先陣三万は、またたく間に大きな被害を出し、前進を完全に阻まれてしまった。
「将軍閣下! 先陣が敵の伏兵によって足止めを食らっております!」
中軍のファビアンの元に、血相を変えた伝令が駆け込んでくる。将軍は、硝煙に包まれる戦場を睨みつけ、鼻で笑った。
「伏兵だと? 山ネズミどもめ、小癪な真似を」
彼は戦場の全体像を分析する。先陣は混乱しているが、左右から火を噴いている敵の陣容は明らかに薄い。
「惜しむらくは、あの小細工を支える兵力が圧倒的に少ないことだな。あれでは我が先陣を崩し切ることはできん」
ファビアンは、腰の剣を引き抜き、空へと高らかに掲げた。
「左右の軍、各三万を前進させよ! 側面の伏兵どもを呑み込み、そのまま辺境伯の主力もろとも包囲殲滅するのだ!」
将軍の号令が下ると、地平線を黒く染めていた左右の軍が重々しく動き始めた。六万という絶望的な軍圧が、伏兵たちを粉砕すべく迫っていく。その圧力に押されるように、左右の伏兵たちはあっさりと射撃を止め、慌てて後退を始めた。
「ネズミどもを逃がすな! 包囲殲滅するぞ!」
勝利を確信したファビアンの声が響く。だが将軍が相対している敵の策はこれだけではなかった。