傲慢な世界よ、私が壊してあげるわ~公爵令嬢に転生したOLは悪の覇道を突き進む
第138話 盾と銃
ザハツ平原での激突は、バニア皇国の誇る二万の重歩兵団の前進によって幕を開けた。
彼らは全身を分厚い鋼の鎧で覆い、高さ一メートル八十センチにも及ぶ巨大な大盾を前面に構えている。重厚な軍靴が大地を踏み鳴らす地響きと、擦れ合う金属音が戦場に響く。彼らはまさに、意思を持った移動要塞だった。
「敵の重歩兵が動きました」
「うむ。慌てるな。事前の打ち合わせ通り、中軍は適度に銃撃しつつ後退する」
ジャックの短い指示が伝達されると、中軍のマスケット銃が一斉に火を噴いた。無数の鉛玉が重歩兵に降り注ぐが、厚さ三センチの鋼の盾はそれらを弾き返し、鈍い音と共に火花を散らす。重歩兵たちは銃撃をものともせず、じりじりと距離を詰めてくる。だが、その足取りは全身を覆う重装備ゆえに極めて遅い。
後方から戦況を見下ろしていたバニア皇国軍総大将、オメア・ボイトラー将軍は、数多の銃撃を物ともせず前進を続ける重歩兵団を確認して、傲然と笑った。
「見ろ、やはり奴らの新兵器とやらも、我が皇国が誇る不敗の盾を貫くことはできん」
オメアの戦術理論は、過去数百年にわたる大陸の歴史に裏打ちされていた。敵を分断し、その間に両翼を数で包み込む。各個別撃破という用兵の王道こそが、絶対的な必勝法であると信じて疑わなかった。
「敵の中央は重圧に耐えかねて後退しておるわ。予定通り、残りの全軍をもって敵の左翼と右翼をすり潰せ!」
将軍の号令により、バニア皇国の軽歩兵や騎兵たちが砂埃を巻き上げ、クライナイン軍の両翼へと殺到した。しかし、左翼を任されたジルダ少将と、右翼を預かるテジ・ダヴィド少将の部隊は、微動だにせず持ち場を死守していた。各二万の銃撃兵が整然と三列の横隊を組んでいる。そして、流れるような分業制で弾込めと射撃を繰り返す。
「引き付けるな! 弾幕を張り続けろ!」
ジルダの檄が飛び交い、濃密な硝煙が立ち込める。殺到するバニア軍の兵士たちは、見えない死の壁に阻まれ、次々と地に伏した。圧倒的な数の優位を持ちながらも、近寄ることさえ許されず、ただ機械的に処理されていく。
一方、ジャック率いる中軍は、焦る様子もなく一定の速度で後退を続けていた。前進してくる敵の重歩兵が、足止めを食らっている自軍の左右の部隊から完全に孤立し、突出する形になっている。
重歩兵団は、まるでモーセが海割れの中を歩くかのように進み、ジャックの中軍は中央を開け、左右へと滑らかに移動していく。結果として、ジャックの軍は重歩兵をすっぽりと包み込むような「コの字型」の陣形へと姿を変えた。だが、視界の極端に狭い重装甲の兜を被り、正面の敵だけを見て前進を続けるバニアの重歩兵たちは、自分たちが致命的な袋小路に誘い込まれていることに全く気付いていない。
「頃合いか」
ジャックは前方を見据えながら命じた。
「『青い玉』を上げよ」
「はっ!」
部下が合図用の銃を空高く掲げ、引き金を引いた。甲高い音と共に打ち出された弾丸が空中で破裂し、鮮やかな青色の煙を広げる。それが、反撃の狼煙だった。
青い信号弾を見た瞬間、コの字の左右に展開していた一万の銃撃兵が、一斉に銃口を敵の側面へと向け、無言で射撃を始めた。地鳴りのような轟音が響き渡る。
重歩兵たちの巨大な盾は、あくまで正面からの攻撃を防ぐためのものだ。無防備な左右の脇腹から浴びせられた十字砲火を防ぐ手立ては、彼らには存在しない。かつてのカッツー王国との戦いで、クライナインの銃が彼らが纏った甲冑を容易く貫通することは既に実証済みである。
「ぐぁあっ!」
「側面からだ! 盾を回せ!」
悲鳴と怒号が交錯する。しかし、自らを護るはずの重すぎる装甲と巨大な盾が、ここでは致命的な枷となった。彼らが鈍重な動作で盾の向きを変えようと泥の中で足掻く間に、第二射、第三射の鉛玉の雨が容赦なく襲い掛かる。
肉を穿ち、骨を砕く鈍い音が連続し、不敗を誇った重歩兵団は、次々と地に平伏していった。誇り高き鋼の壁は、自らの重さに押し潰されるようにして、瞬く間に崩壊した。
「ば、馬鹿な……。我が皇国の誇りが、あのようにあっけなく……」
本陣のオメア将軍は、目の前で繰り広げられる惨劇に言葉を失った。無敵を信じて疑わなかった重歩兵の壊滅。それは、必勝を期していたバニア皇国軍の将兵にとって、精神的な支柱を根元からへし折られるに等しい衝撃だった。両翼を攻めていた兵士たちの足も完全に止まり、軍全体に明らかな恐怖と動揺が波及していく。
だが、オメア将軍は自らの頬を強く叩き、己を奮い立たせた。ここで引けば、祖国の未来はない。
「たじろぐな!」
彼は剣を抜き放ち、怯えきった兵士たちに向けて声を張り上げた。
「いまだ我々の数は敵をはるかに上回っている! 祖国バニアの存亡は、この一戦にかかっているのだ! 恐れず戦え! 数で押し潰せ!」
将軍の悲痛な叫びが戦場に響き渡る。しかし、兵士たちの顔に深く刻まれた恐怖の影を拭い去ることはできなかった。重苦しい風が吹き抜ける中、戦いは第二幕へ移行した。
彼らは全身を分厚い鋼の鎧で覆い、高さ一メートル八十センチにも及ぶ巨大な大盾を前面に構えている。重厚な軍靴が大地を踏み鳴らす地響きと、擦れ合う金属音が戦場に響く。彼らはまさに、意思を持った移動要塞だった。
「敵の重歩兵が動きました」
「うむ。慌てるな。事前の打ち合わせ通り、中軍は適度に銃撃しつつ後退する」
ジャックの短い指示が伝達されると、中軍のマスケット銃が一斉に火を噴いた。無数の鉛玉が重歩兵に降り注ぐが、厚さ三センチの鋼の盾はそれらを弾き返し、鈍い音と共に火花を散らす。重歩兵たちは銃撃をものともせず、じりじりと距離を詰めてくる。だが、その足取りは全身を覆う重装備ゆえに極めて遅い。
後方から戦況を見下ろしていたバニア皇国軍総大将、オメア・ボイトラー将軍は、数多の銃撃を物ともせず前進を続ける重歩兵団を確認して、傲然と笑った。
「見ろ、やはり奴らの新兵器とやらも、我が皇国が誇る不敗の盾を貫くことはできん」
オメアの戦術理論は、過去数百年にわたる大陸の歴史に裏打ちされていた。敵を分断し、その間に両翼を数で包み込む。各個別撃破という用兵の王道こそが、絶対的な必勝法であると信じて疑わなかった。
「敵の中央は重圧に耐えかねて後退しておるわ。予定通り、残りの全軍をもって敵の左翼と右翼をすり潰せ!」
将軍の号令により、バニア皇国の軽歩兵や騎兵たちが砂埃を巻き上げ、クライナイン軍の両翼へと殺到した。しかし、左翼を任されたジルダ少将と、右翼を預かるテジ・ダヴィド少将の部隊は、微動だにせず持ち場を死守していた。各二万の銃撃兵が整然と三列の横隊を組んでいる。そして、流れるような分業制で弾込めと射撃を繰り返す。
「引き付けるな! 弾幕を張り続けろ!」
ジルダの檄が飛び交い、濃密な硝煙が立ち込める。殺到するバニア軍の兵士たちは、見えない死の壁に阻まれ、次々と地に伏した。圧倒的な数の優位を持ちながらも、近寄ることさえ許されず、ただ機械的に処理されていく。
一方、ジャック率いる中軍は、焦る様子もなく一定の速度で後退を続けていた。前進してくる敵の重歩兵が、足止めを食らっている自軍の左右の部隊から完全に孤立し、突出する形になっている。
重歩兵団は、まるでモーセが海割れの中を歩くかのように進み、ジャックの中軍は中央を開け、左右へと滑らかに移動していく。結果として、ジャックの軍は重歩兵をすっぽりと包み込むような「コの字型」の陣形へと姿を変えた。だが、視界の極端に狭い重装甲の兜を被り、正面の敵だけを見て前進を続けるバニアの重歩兵たちは、自分たちが致命的な袋小路に誘い込まれていることに全く気付いていない。
「頃合いか」
ジャックは前方を見据えながら命じた。
「『青い玉』を上げよ」
「はっ!」
部下が合図用の銃を空高く掲げ、引き金を引いた。甲高い音と共に打ち出された弾丸が空中で破裂し、鮮やかな青色の煙を広げる。それが、反撃の狼煙だった。
青い信号弾を見た瞬間、コの字の左右に展開していた一万の銃撃兵が、一斉に銃口を敵の側面へと向け、無言で射撃を始めた。地鳴りのような轟音が響き渡る。
重歩兵たちの巨大な盾は、あくまで正面からの攻撃を防ぐためのものだ。無防備な左右の脇腹から浴びせられた十字砲火を防ぐ手立ては、彼らには存在しない。かつてのカッツー王国との戦いで、クライナインの銃が彼らが纏った甲冑を容易く貫通することは既に実証済みである。
「ぐぁあっ!」
「側面からだ! 盾を回せ!」
悲鳴と怒号が交錯する。しかし、自らを護るはずの重すぎる装甲と巨大な盾が、ここでは致命的な枷となった。彼らが鈍重な動作で盾の向きを変えようと泥の中で足掻く間に、第二射、第三射の鉛玉の雨が容赦なく襲い掛かる。
肉を穿ち、骨を砕く鈍い音が連続し、不敗を誇った重歩兵団は、次々と地に平伏していった。誇り高き鋼の壁は、自らの重さに押し潰されるようにして、瞬く間に崩壊した。
「ば、馬鹿な……。我が皇国の誇りが、あのようにあっけなく……」
本陣のオメア将軍は、目の前で繰り広げられる惨劇に言葉を失った。無敵を信じて疑わなかった重歩兵の壊滅。それは、必勝を期していたバニア皇国軍の将兵にとって、精神的な支柱を根元からへし折られるに等しい衝撃だった。両翼を攻めていた兵士たちの足も完全に止まり、軍全体に明らかな恐怖と動揺が波及していく。
だが、オメア将軍は自らの頬を強く叩き、己を奮い立たせた。ここで引けば、祖国の未来はない。
「たじろぐな!」
彼は剣を抜き放ち、怯えきった兵士たちに向けて声を張り上げた。
「いまだ我々の数は敵をはるかに上回っている! 祖国バニアの存亡は、この一戦にかかっているのだ! 恐れず戦え! 数で押し潰せ!」
将軍の悲痛な叫びが戦場に響き渡る。しかし、兵士たちの顔に深く刻まれた恐怖の影を拭い去ることはできなかった。重苦しい風が吹き抜ける中、戦いは第二幕へ移行した。