紳士な弁護士と偽りデートから
 あかりは海都の存在を忘れて、洋服を物色した。海都はそれをよそに、店内から、少し離れた座り心地のよい椅子に腰かけて、あかりを見守っていた。 
 着衣室に入ったのを見届けて、さりげなく飾られた洋服を見る。
 嬉しそうな顔をしてやってきた。
「そちらを買うんですか?」
「はい。まだ、ちょっと見ます。すみません。退屈させてしまいますが」
「いえいえ、大丈夫です。一緒にいるだけでも充分ですから」
 海都のさらっとした会話に、あかりの頬は赤くなった。
 
 あかりはレジに持って行くと、店員さんが、
「こちらの商品、お支払い済みになっておりますので、袋にいれますね」
 と、教えてくれた。
 あかりは驚いて海都を見ると、海都はまた椅子に腰かけて、手を振っている。
「坪平さん、ありがとうございます!」
「......海都でいいよ」
「か、海都さん」
「海都」
 海都がさらりと伝える。いざ呼び捨てだと、恥ずかしくて呼びづらい。

 あかりはごにょごにょした。
「慣れるまでいいですか?」
「そう......だね」
「今、敬語を使おうとしましたね」
 あかりも意地悪く言った。
「意外と難しい」
「それだけ海都さんは......、真面目なのよ」
「ありがとう」
 海都は素直にお礼を言った。

「この洋服を着るのが楽しみ!」
「俺も見れるのかな」
 フレンチの時に着ていこうと思っている服よ、なんてあかりは言わず、ただ、ふふっ、と微笑んだ。驚かせたい。そんな思いだ。

「お腹空いたけど、何か食べよ」
「そう......だね」
「最上階のレストランに、美味しいパスタ屋さんがあるんですけど、いいですか?」 
 あかりはぐいぐい引っ張る。
「俺もそこは大好きなんだよね。最上階だけあって眺めもいい」
「ひょっとしたら、会っていたかもしれませんねっ」
 あかりは楽しそうに話した。 

 あのちょっとした事件と出くわして、性格的には行動力は抜群なのかな、と、海都は思っていたが、やはり確信した。待っている感じではないし、ぐいぐい引っ張る。
 うかうかしていて、もし、彼女に好きな人が出きたら......と、思うと、海都はソワソワした。
「どうしたの?」
 あかりはソワソワしている海都に訊ねた。

「いや、なんでもないよ」
 まさか君のことが欲しい! などと言えない海都だ。
 さりげなくあかりをエスコートした。
 
 そのさりげないエスコートぶりが、近場にいた女性たちを魅了させた。
 上品なマダムたちからは、どこかの財閥子息だろうか、などと囁かれてもいた。

 わたしにとっては、勿体ない存在かも知れないわね、なんて、あかりは思う。

 海都は辛めのパスタ、アラビアータを頼み、あかりはエビのクリームパスタを頼んだ。

 【北欧のそよ風】でも、海都はブラックコーヒーを頼んでいる。
「ひょっとして、甘いのは苦手ですか?」
「苦手って訳ではありませんが、好んでは飲みませんね。よっぽど疲れた時か、付き合い程度ですかね」
「そうですか。あ、デートとか?」
「いえ、そんな人はいないよ」
 海都はクスクス笑う。

「す、すみません。そんなつもりでは......」
 動揺して、敬語になるあかり。
「なら、どんなつもり?」
 海都は意地悪く言ってみる。

 あかりは、ホテルで一杯奢らせてくれ、という、海都の言葉を思い出した。結局はキャンセルのままだったが。 

「こ、ここのパスタ、ほんと美味しいよね」
 あかりは話をそらした。 
「名店だよね」
 海都はくすくす笑いながら言った。わざとらしかったかな。あかりは思った。


 デザートも食べたところで、
「お腹いっぱい!」
 と、声を出した。
 海都はあかりを見ると、微笑ましく思えた。素直な人だ。素直過ぎて危ない。

「それにしてもいいお天気ね」
 あかりが窓を見て言った。
「んー。予定がなければ、これから、散歩しようか?」 
 海都が提案すると、あかりは嬉しそうな表情をして、
「はい!」
 と、満面の笑みで答えた。

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