影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
その日は、忘れられない夜になった。

「そういえば私……お褥のこと、全然知らなくて。」

ぽつりと呟いた言葉に、誠一郎さんが優しく微笑む。

「何を知らないんだ?」

彼の問いかけに、私は少しだけ頬を染めた。

「……どうすれば、喜んでもらえるのか……あなたを。」

言葉にした瞬間、彼の目が驚きと優しさで揺れる。

「そんなこと知らなくていいんだよ。」

誠一郎さんが頬に手を当てる。

「梨沙は、俺の愛を一心に受け止めてくれればいいんだよ。」

「でも、それだけじゃ、今夜は満足しない。」

私の言葉に、誠一郎さんの目がわずかに揺れる。

そして私の唇が、彼の唇にそっと触れた。

ゆっくり、やさしく、だけど確かに――

自分から、口づけをしたのは初めてだった。

「梨沙……」

彼の声が熱を帯びるのが分かる。

私はそっと、誠一郎さんの胸に手を添え、そのまま彼の肌へ口づけを落としていった。
< 116 / 122 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop