影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
私はおずおずと頷き、ふたりで湯船から上がった。

湯気の立ちこめる中、誠一郎さんは備え付けの小さな椅子に腰を下ろす。

その背中は広く、逞しく、けれどどこか静かで――

私はそっとタオルに石鹸をとり、泡立て始めた。

くるくると回すと、泡がふわりと立った。

今まで見たことのない、きめ細やかで柔らかい泡。

「それ、西洋から取り寄せたんだ。君に使ってもらいたくてね。」

誠一郎さんは、後ろを見ずにそう言った。

けれど耳のあたりが、ほんのり赤く染まっているのがわかった。

「……ありがとうございます。」

その言葉を、心からの声で伝えると、手に持った泡の感触が、なんだか少し愛おしくなった。

私はそっとタオルを彼の背に当て、静かに、優しく撫でるように洗い始めた。

(誠一郎さんの背中、大きいな……)

それは、重ねてきた歳月の分だけ、責任を背負ってきた背中。
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