影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
でもその時、私は心から願ってしまっていた。

(どうか、この時間が、ずっと終わらなければいい)

ベージュのワンピースに、淡い色のハンドバッグ。

誠一郎さんが選んでくれた洋装を身に纏い、私は街を歩いていた。

「似合ってるよ、梨子。」

横を歩く誠一郎さんが、さりげなく手を繋いでくれる。

――幸せだと思った。このままずっと、彼の妻でいられたら。

そんな風に思っていた矢先だった。

「まあ、黒瀬さん!」

通りの角から現れた花屋の女性が、明るい声を上げた。

「今日はお花、買っていかないの?」

「ああ……」誠一郎さんが少し言いよどむ。

「お花が好きな彼女。まだ元気なの?」

その言葉に、私の心臓が跳ねた。

(彼女……?)

私のことじゃない。きっと、前の恋人のこと。

「……新しい人?」

女性は私の存在に気づき、気まずそうな笑みを浮かべた。

「妻なんだ。」

誠一郎さんの声は、はっきりしていた。

「結婚したの!」
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