影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
「このような……若い女の肌は、久しぶりじゃ……」

掠れた声が、私の耳に流れ込んだ。

軍三郎さんの体を見ると、細くやせ衰えている。

だけど……性欲は、ある。

――おおお、神様……

こんな夜、誰が想像しただろう。

「梨沙、震えているのか。」

軍三郎さんが私の頬を撫でながら、優しげに問いかけた。

「聞けば……生娘ではないのだろう。」

その言葉に、心臓が跳ねる。

噂が、届いている。やはり、黒瀬の家から漏れたのか。

「……ならば。」

軍三郎さんの声が、重く、落ち着いて響く。

「わしを、誘ってみろ。」

「えっ……?」

私は一瞬、言葉の意味が理解できずに固まる。

「妾腹の娘でも、出戻りでも構わん。だが、妻として迎えた以上、その身で、わしを悦ばせてみせい。」

軍三郎の瞳が、暗い欲望の色に染まっていた。

――この人の前では、演じなければならない。

誠一郎さんの子を、守るために。
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