影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
乾いた手が私の頬を撫でる。体がこわばる。

覚悟したはずだった。

誠一郎さんの子を守るために、この体を差し出すと決めたのに――。

だが、その手が胸元に触れた瞬間、全身に嫌悪と恐怖が走った。

(ダメ……無理……無理……!)

「やっぱり、無理っ!」

私は叫び、思わず軍三郎さんの頬を叩いていた。

「何を――」

驚いたように目を見開く軍三郎さんに、私は震える声で叫んだ。

「ごめんなさい……でも、できません。私は、他の人を――誠一郎さんを……愛しているんです!」

布団から飛び出し、私はその場に膝をついた。

「どうか……お願いです。この子だけは、守らせてください……!」

沈黙のあと、軍三郎さんは長く息を吐いた。

「その誠一郎さんというのは、黒瀬の坊か。」

私はこくんと頷いた。

軍三郎さんの目が細くなり、遠い記憶をたどるように小さく息をついた。
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