末の妹として大切にされてきましたが、 妻として溺愛されることになりました
第三章 セシルの魅惑⑥
いよいよ音楽会の日が訪れた。
ディアナの部屋には上等の絨毯が敷かれ、見事なクリスタルのシャンデリアが日の光に照らされて煌めいている。真新しい絹のカーテンが窓辺を飾り、庭園から漂う花の香りが室内を華やかな雰囲気に彩っていた。
幸運な招待客は一張羅の洋服に身を包み、主役の登場を今か今かと待っていた。誰しもが期待に胸を膨らませ、楽しげにささやき合っている。
「いよいよですわね」
扉の隙間からそっと部屋の中を窺っていたクレアは、緊張した面持ちでつぶやく。
「大丈夫、絶対に成功するよ」
正装に身を包んだセシルが、優しくクレアの肩を抱いてくれる。
「はい」
クレアは力を込めて返事をし、聴衆の待つ部屋の中に足を踏み入れた。
温かい拍手と、うっとりとしたため息に包まれ、クレアは紅潮した頬でステージ上に立った。透けるほどに繊細なレースを、幾重にも重ねたドレスを纏った彼女は深々とお辞儀をする。
「本日は音楽会にお集まり下さり、心より感謝申し上げます」
クレアはひとりひとり来場者を見渡しながら、ゆっくりと続けた。
「このお母様のお部屋で、皆様と共に、素晴らしい音楽に身を委ねられますことを大変嬉しく思います。本日お届けする旋律が皆様の心に深く響き渡り、オークレントの一員としてより絆を深められることを願っております。どうぞ存分にお楽しみください」
ピアノの前にセシルが腰掛け、滑らかな音色が部屋を包み込む。その美しいメロディーが観客の心を甘く抱き、各々の胸の奥に眠る感情をそっと呼び覚ましていく。
クレアが歌い始めると、会場に新鮮な驚きが広がった。
その場にいる誰もが同じことを思い、同じ人の記憶に心を寄せていた。ディアナの名を口にすることはなくとも、皆がクレアの歌声にディアナの面影を感じたのだ。
ディアナが愛したこの部屋で、クレアの美しい歌声が響く。
母娘の姿形は似ていなくとも、ディアナの想いはクレアに受け継がれている。クレアの歌声が皆の心にディアナの存在を呼び覚まし、彼女が心に生き続けていることを思い出させたのだ。
誰しもが心の中でディアナと語り合い、彼女との特別なひとときを懐かしんでいた。言葉ではなく音楽だからこそ、伝わるものがある。
やがて曲が終わり、皆の心に優しく胸を締め付けるような余韻が広がっていく。
部屋には一瞬の静寂が訪れ、すぐに割れんばかりの拍手が沸き起こった。それはもちろんクレアへの賞賛であったが、ディアナへの敬意もあった。
クレアが歌声に託した、ディアナへの敬慕はしっかりと皆の心に刻み込まれたのだ。
「素晴らしかったよ!」
演者であるはずのセシルまで、大きな拍手を送ってくれている。クレアは自らの歌声が、ディアナの思い出と共にあるのを感じて、喜びで胸が一杯になった。
「ありがとうございます……、セシル兄様のおかげですわ」
「何言ってるの、全部クレアの努力のたまものだよ。母上への愛が、ちゃんとクレアの中に息づいてるから、皆の心を打ったんだ」
クレアは瞳を涙で潤ませながら、何度もうなずいた。
セシルがクレアを抱き寄せようとすると、ふいに窓辺から小鳥が迷い込んできた。小鳥は部屋を旋回しながら鳴き始める。
「クレアガンバレ」「クレアダイスキ」「クレアカワイイ」
感動に包まれていた部屋は、ふいに温かい笑いで包み込まれた。セシルは周囲の視線を避け、照れくさそうに顔を伏せる。
「よく調教したもんだ。なぁ、セシル」
ブレットが可笑しそうに笑い、セシルの顔全体がほんのり赤くなっていく。
「違っ、僕じゃな」
クレアはクスッと笑うと、セシルの手を取った。
「私とブレット兄様は、セシル兄様が小鳥達に言葉を教えているところを拝見したんですの。セシル兄様の、お優しい心遣いがとても嬉しいですわ」
「まいったな、見られてたのか……」
セシルはぎこちなく髪をかき上げて、気まずそうに笑った。恥ずかしくはあっただろうが、きっと悪くない気分だったのだろう。
その微笑みはとても晴れやかだったから。
ディアナの部屋には上等の絨毯が敷かれ、見事なクリスタルのシャンデリアが日の光に照らされて煌めいている。真新しい絹のカーテンが窓辺を飾り、庭園から漂う花の香りが室内を華やかな雰囲気に彩っていた。
幸運な招待客は一張羅の洋服に身を包み、主役の登場を今か今かと待っていた。誰しもが期待に胸を膨らませ、楽しげにささやき合っている。
「いよいよですわね」
扉の隙間からそっと部屋の中を窺っていたクレアは、緊張した面持ちでつぶやく。
「大丈夫、絶対に成功するよ」
正装に身を包んだセシルが、優しくクレアの肩を抱いてくれる。
「はい」
クレアは力を込めて返事をし、聴衆の待つ部屋の中に足を踏み入れた。
温かい拍手と、うっとりとしたため息に包まれ、クレアは紅潮した頬でステージ上に立った。透けるほどに繊細なレースを、幾重にも重ねたドレスを纏った彼女は深々とお辞儀をする。
「本日は音楽会にお集まり下さり、心より感謝申し上げます」
クレアはひとりひとり来場者を見渡しながら、ゆっくりと続けた。
「このお母様のお部屋で、皆様と共に、素晴らしい音楽に身を委ねられますことを大変嬉しく思います。本日お届けする旋律が皆様の心に深く響き渡り、オークレントの一員としてより絆を深められることを願っております。どうぞ存分にお楽しみください」
ピアノの前にセシルが腰掛け、滑らかな音色が部屋を包み込む。その美しいメロディーが観客の心を甘く抱き、各々の胸の奥に眠る感情をそっと呼び覚ましていく。
クレアが歌い始めると、会場に新鮮な驚きが広がった。
その場にいる誰もが同じことを思い、同じ人の記憶に心を寄せていた。ディアナの名を口にすることはなくとも、皆がクレアの歌声にディアナの面影を感じたのだ。
ディアナが愛したこの部屋で、クレアの美しい歌声が響く。
母娘の姿形は似ていなくとも、ディアナの想いはクレアに受け継がれている。クレアの歌声が皆の心にディアナの存在を呼び覚まし、彼女が心に生き続けていることを思い出させたのだ。
誰しもが心の中でディアナと語り合い、彼女との特別なひとときを懐かしんでいた。言葉ではなく音楽だからこそ、伝わるものがある。
やがて曲が終わり、皆の心に優しく胸を締め付けるような余韻が広がっていく。
部屋には一瞬の静寂が訪れ、すぐに割れんばかりの拍手が沸き起こった。それはもちろんクレアへの賞賛であったが、ディアナへの敬意もあった。
クレアが歌声に託した、ディアナへの敬慕はしっかりと皆の心に刻み込まれたのだ。
「素晴らしかったよ!」
演者であるはずのセシルまで、大きな拍手を送ってくれている。クレアは自らの歌声が、ディアナの思い出と共にあるのを感じて、喜びで胸が一杯になった。
「ありがとうございます……、セシル兄様のおかげですわ」
「何言ってるの、全部クレアの努力のたまものだよ。母上への愛が、ちゃんとクレアの中に息づいてるから、皆の心を打ったんだ」
クレアは瞳を涙で潤ませながら、何度もうなずいた。
セシルがクレアを抱き寄せようとすると、ふいに窓辺から小鳥が迷い込んできた。小鳥は部屋を旋回しながら鳴き始める。
「クレアガンバレ」「クレアダイスキ」「クレアカワイイ」
感動に包まれていた部屋は、ふいに温かい笑いで包み込まれた。セシルは周囲の視線を避け、照れくさそうに顔を伏せる。
「よく調教したもんだ。なぁ、セシル」
ブレットが可笑しそうに笑い、セシルの顔全体がほんのり赤くなっていく。
「違っ、僕じゃな」
クレアはクスッと笑うと、セシルの手を取った。
「私とブレット兄様は、セシル兄様が小鳥達に言葉を教えているところを拝見したんですの。セシル兄様の、お優しい心遣いがとても嬉しいですわ」
「まいったな、見られてたのか……」
セシルはぎこちなく髪をかき上げて、気まずそうに笑った。恥ずかしくはあっただろうが、きっと悪くない気分だったのだろう。
その微笑みはとても晴れやかだったから。