末の妹として大切にされてきましたが、 妻として溺愛されることになりました
第四章 クレアの過去③
サマンサの家に招待されたクレアだったが、今にも崩れそうなあばら屋に言葉を失う。
「どうぞ。召し上がって」
出されたお茶も決して美味しいとは言えず、かなり困窮しているようだ。
「あぁ、本当に良く似ているわ。まるで二十年前に戻ったみたい」
サマンサはクレアを見ながら、ほぅとため息をついた。
「母とは、どういう?」
「私たち、同じ孤児院で育ったの。年も近かったし、本当に仲が良かったのよ」
ローラは孤児だったのだ。頼れる人がいない女性だったこともあって、陛下はエドワーズ家に身重のローラを預けたのだろう。
「母は、どんな人だったのですか?」
「心優しい人だったわ。困っている人を放っておけない質でね。怪我をしたり病にかかった人を見かけたら、助けずにはいられないの」
陛下に見初められる人だったのだから、きっと素敵な女性だろうとは思ったが、サマンサの口から改めて聞くと誇らしい気持ちになる。
クレアの母親は、ディアナに負けず劣らず、素晴らしい女性だったのだ。
「ローラが王宮で働くことになったのも、その心優しさのためよ」
「どういう、意味ですか?」
「助けた旅人のひとりが、王宮からの使者だったの。ローラの親切に感動して、王宮で働けるよう推薦状を書いてくれたのよ」
昔を思い出したのか、サマンサは羨ましそうに続ける。
「こんな田舎の娘が、それも孤児が王宮で働けるなんてね。本当にローラは運が良かったわ」
「母とはそれ以来?」
「たまに手紙をくれたわよ。まだ置いてあるわ」
サマンサは立ち上がり、書き物机の引き出しから、数枚の手紙を取り出した。
これが母の字……。教養を感じられるきれいな筆跡だった。
初めて見る母親の痕跡に、心の奥底から言葉にならない何かが込み上げる。
文面は国王陛下への敬愛で溢れており、確かにクレアの両親は愛し合っていたのだろうと感じられた。抱擁の記憶はなくとも、ふたりの愛はクレアの身体と心に息づいている。彼女が健やかに成長していることこそが、両親の愛の証なのだ。
幸せにならなければ――!
クレアはそう決心し、改めて兄達と向き合おうと思った。心から愛する兄達なくしては、彼女の幸せはあり得ないからだ。
最愛の人と添い遂げ、幸福な一生を送ろう。
それ以上に両親への手向けになることは、きっとないに違いない。
「いつの間にかぱったり手紙も届かなくなったから、私の事なんてもう忘れちゃったのかと思っていたけど」
サマンサの声がわずかに震えていた。嫉妬か諦めか、はっきり言葉にはしないまでも、彼女の苦しい胸の内が伝わってくる。
「そんなことはないと思います。母は私を産んですぐに亡くなったそうですから、きっと近況を伝えることもできないまま」
クレアが顔を伏せると、サマンサが痛ましい声でつぶやく。
「そう……」
しばらくうなだれていたサマンサだったが、じっとクレアを見つめて言った。
「でもきっと、ローラは裕福な方と結ばれたのでしょう?」
どこか媚びるような瞳。クレアは居心地の悪さを感じて黙り込んでしまう。
「あなたの着ている物は上等だし、肩に乗っているお猿さんも珍しいし。私なんかとは、違う世界を生きてるのがわかるわ」
サマンサの貧しさは一目瞭然だ。クレアに声を掛けたのも、何かしらの金銭的な支援を期待してのことだったのかもしれない。
「あの、実は私、宿を探しているんです。もし良ければ、私と御者をこちらにひと晩泊めていただけませんか? もちろん謝礼はお渡しします」
正直に言えば、宿なら他にいくらでもある。ようやっと雨風をしのげるだけのココよりも、ずっと快適に休める場所を用意してもらえるだろう。
しかし施しなどではない形で、サマンサに援助したかったのだ。もしローラが生きていれば、同じようにするだろうから。
「まぁそれならぜひ、泊まっていって。幾らでもいてくれていいのよ」
サマンサは両手を合わせ、嬉しそうに言った。
クレアが先に謝礼を渡すと、サマンサはその額に目の色を変えていた。何度も感謝し、できうる限りのもてなしをしてくれた。
豪勢なディナーとはいかないが、温かい食事と清潔なベッドを用意してくれ、クレアはロティーと久しぶりにぐっすりと休むことができた。
しかしその夜遅く、クレアとロティーが眠る部屋に、招かれざる客が訪れたのだ。
「どうぞ。召し上がって」
出されたお茶も決して美味しいとは言えず、かなり困窮しているようだ。
「あぁ、本当に良く似ているわ。まるで二十年前に戻ったみたい」
サマンサはクレアを見ながら、ほぅとため息をついた。
「母とは、どういう?」
「私たち、同じ孤児院で育ったの。年も近かったし、本当に仲が良かったのよ」
ローラは孤児だったのだ。頼れる人がいない女性だったこともあって、陛下はエドワーズ家に身重のローラを預けたのだろう。
「母は、どんな人だったのですか?」
「心優しい人だったわ。困っている人を放っておけない質でね。怪我をしたり病にかかった人を見かけたら、助けずにはいられないの」
陛下に見初められる人だったのだから、きっと素敵な女性だろうとは思ったが、サマンサの口から改めて聞くと誇らしい気持ちになる。
クレアの母親は、ディアナに負けず劣らず、素晴らしい女性だったのだ。
「ローラが王宮で働くことになったのも、その心優しさのためよ」
「どういう、意味ですか?」
「助けた旅人のひとりが、王宮からの使者だったの。ローラの親切に感動して、王宮で働けるよう推薦状を書いてくれたのよ」
昔を思い出したのか、サマンサは羨ましそうに続ける。
「こんな田舎の娘が、それも孤児が王宮で働けるなんてね。本当にローラは運が良かったわ」
「母とはそれ以来?」
「たまに手紙をくれたわよ。まだ置いてあるわ」
サマンサは立ち上がり、書き物机の引き出しから、数枚の手紙を取り出した。
これが母の字……。教養を感じられるきれいな筆跡だった。
初めて見る母親の痕跡に、心の奥底から言葉にならない何かが込み上げる。
文面は国王陛下への敬愛で溢れており、確かにクレアの両親は愛し合っていたのだろうと感じられた。抱擁の記憶はなくとも、ふたりの愛はクレアの身体と心に息づいている。彼女が健やかに成長していることこそが、両親の愛の証なのだ。
幸せにならなければ――!
クレアはそう決心し、改めて兄達と向き合おうと思った。心から愛する兄達なくしては、彼女の幸せはあり得ないからだ。
最愛の人と添い遂げ、幸福な一生を送ろう。
それ以上に両親への手向けになることは、きっとないに違いない。
「いつの間にかぱったり手紙も届かなくなったから、私の事なんてもう忘れちゃったのかと思っていたけど」
サマンサの声がわずかに震えていた。嫉妬か諦めか、はっきり言葉にはしないまでも、彼女の苦しい胸の内が伝わってくる。
「そんなことはないと思います。母は私を産んですぐに亡くなったそうですから、きっと近況を伝えることもできないまま」
クレアが顔を伏せると、サマンサが痛ましい声でつぶやく。
「そう……」
しばらくうなだれていたサマンサだったが、じっとクレアを見つめて言った。
「でもきっと、ローラは裕福な方と結ばれたのでしょう?」
どこか媚びるような瞳。クレアは居心地の悪さを感じて黙り込んでしまう。
「あなたの着ている物は上等だし、肩に乗っているお猿さんも珍しいし。私なんかとは、違う世界を生きてるのがわかるわ」
サマンサの貧しさは一目瞭然だ。クレアに声を掛けたのも、何かしらの金銭的な支援を期待してのことだったのかもしれない。
「あの、実は私、宿を探しているんです。もし良ければ、私と御者をこちらにひと晩泊めていただけませんか? もちろん謝礼はお渡しします」
正直に言えば、宿なら他にいくらでもある。ようやっと雨風をしのげるだけのココよりも、ずっと快適に休める場所を用意してもらえるだろう。
しかし施しなどではない形で、サマンサに援助したかったのだ。もしローラが生きていれば、同じようにするだろうから。
「まぁそれならぜひ、泊まっていって。幾らでもいてくれていいのよ」
サマンサは両手を合わせ、嬉しそうに言った。
クレアが先に謝礼を渡すと、サマンサはその額に目の色を変えていた。何度も感謝し、できうる限りのもてなしをしてくれた。
豪勢なディナーとはいかないが、温かい食事と清潔なベッドを用意してくれ、クレアはロティーと久しぶりにぐっすりと休むことができた。
しかしその夜遅く、クレアとロティーが眠る部屋に、招かれざる客が訪れたのだ。