末の妹として大切にされてきましたが、 妻として溺愛されることになりました

第五章 バーバラの策略①

 時は少し戻り、ここはエドワーズ家のお屋敷。



 クレアのいなくなったこの場所は、まるで火が消えてしまったようだった。不自然なほどに静かで、皆の心に不快なさざ波を起こしている。



「大丈夫かな、クレア……」



 椅子に座って紅茶を飲んでいたセシルがため息をつき、アイザックは苦笑する。



「またそれか? 俺達はクレアを信じて、送り出したはずだろ?」

「でも」

「心配しなくていい。クレアはああ見えて、芯は強いんだから」



 アイザックはセシルを力づけるが、弟の表情は冴えない。屋敷の空虚さに耐えきれず、憂いが宿ったままだ。



「きっとそのうち、手紙のひとつも寄越してくれるさ。様子がわかれば、俺達だって安心できるだろう」

「そう、だね」



 セシルの声が少しは明るくなろうとしたところで、ブレットが深刻な調子で口を開く。



「もしかしたら、手紙はもう出されているのかもしれませんよ。なんらかのトラブルで、こちらに届いていない可能性もあります」

「トラブルって?」



 またセシルの顔が険しくなり、ブレットは追い打ちをかけるように言った。



「目的地は特別治安が悪いとは思いませんが、道中は危険な場所も多いです。盗賊が暗躍しているという噂もありますからね」



 セシルは真っ青な顔で震えだし、抱えた頭をぶんぶんと振り回す。



「あぁどうしよう、クレアに何かあったら」

「おいブレット、あんまりセシルを怯えさせるなよ。お前だってクレアのひとり旅を賛成しただろう?」



 アイザックが苦言を呈し、ブレットは項垂れる。



「それは、そうですが。……不吉な予感がするんです」

「気にしすぎだよ。便りの無いのは良い便りと言うからな」



 ふたりの会話を聞いていたセシルが、おもむろに立ち上がった。



「ダメだ、やっぱり迎えに行こう!」

「おい、ちょっと待てよ、セシル」



 ブレットも立ち上がり、セシルの腕を掴む。



「止めないで下さい、ブレット兄様」

「そんな勝手なこと許せるわけがないだろう」

「ボクはもう決めたんです」



 掴み合ったまま押し問答するふたりを、引き離したのはアイザックだった。



「落ち着けよ、ふたりとも。そんなことをしたら、クレアは傷つくぞ。まるで俺達がクレアを信用していないみたいじゃないか」



 アイザックの言葉を聞き、ふたりは黙ったままうつむいてしまった。クレアを心配する気持ちが大きくなりすぎるあまり、彼女の心情にまで思い至ってなかったからだろう。

 不安と焦燥が漂うティールームに、メイドの声が響いた。



「失礼いたします。お客様をお連れしました」



 メイドの後ろにいたのは、妙齢の美しい令嬢だった。アイザックはその顔に見覚えがあり、思わずつぶやく。



「あなたは確か、ヒースコート家の」

「バーバラと申します。見知っていただいていて、光栄ですわ」



 咲き誇る花のようにバーバラは微笑むが、アイザックは怪訝な顔をして尋ねる。



「今日は何か?」

「親友の、クレアに会いに来ましたの」
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