末の妹として大切にされてきましたが、 妻として溺愛されることになりました

第五章 バーバラの策略③

 皆がブレットに注目した。彼は落ち着き払った様子で、バーバラを見据える。



「君は本当に、クレアの親友だったのか?」

「も、もちろんですわ。わたくしはクレアを心配し」

「クレアは確かに悩んでいたかもしれない。でもそれを僕達にではなく、赤の他人である君にだけ打ち明けるなんて考えられない。僕達兄妹は、誰よりも強い絆で結ばれているのだから」



 バーバラが怯んだのがわかった。しかし彼女はまだ微笑みを浮かべている。



「他人だからこそ、言えることもありますわ。現にその手紙には、自立したいと書かれていますでしょう?」



 ブレットはポイと手紙を捨てて、素っ気なく言った。



「この手紙は偽物ですよ」

「何を」

「一枚目の手紙と、二枚目の手紙。確かによく似ています。でも使われたインクが違う」

「インク、ですって……?」



 バーバラの表情が、動揺で醜く崩れ始めた。最初はごくわずかな変化だったが、少しずつ広がり大きくなっていく。



「そんなもの、気分で変えたのかもしれないし、たまたま切らしていたのかもしれないじゃありませんか」

「あり得ないね」



 ブレットは断言して続ける。



「クレアは母上に憧れて、僕が作ったバラの香りがするインクを使っていた。君が本当にクレアの大事な人なら、必ずそのインクを使うはずなんだ」



 バーバラはギリッと歯を噛みしめ、ブレットを睨み付けている。



「最初から、どうもおかしいと思っていたんですよ。クレアにとって大切な人なら、僕達に紹介しないはずがありませんからね」

「確かに、そうだな」



 アイザックがポツリと言った。バーバラの巧みな嘘に惑わされていた瞳が、ブレットによって覚まされていくのを感じる。



「そんな、アイザック様まで……。わたくしは本当にクレアを心配して」

「ブレット兄様の言うとおりだと思うよ。どうせ策を弄して近づいたんじゃないの? クレアにその悪事を見抜かれて、愛想を尽かされたんだろうね」



 セシルはおもむろにヴァイオリンを取り出し、唐突に演奏を始めた。いつもの彼の音楽ではない、攻撃的で耳障りな音色だ。



「さぁ白状しなよ。どうせもう逃げられないんだからさ」



 敢えて不協和音を奏でるのは、バーバラの不安を煽り立てるためらしかった。精神的な安定をもたらす癒やしの音楽があるなら、人をストレスで追い詰める音楽もあるというわけだ。



「わ、わたくしは」



 バーバラは頭を抱え込み、不快に顔を引きつらせる。それでも作り笑いを浮かべて、声を震わせながら言い訳を重ねた。



「嘘、なんてついてい、ません」

「もういいよ。僕達はもう、君の言葉を信じることはないんだから」

「わたくしはただ、クレアが心配で、本当にそれだけ、ですわ」



 不自然に高く、焦りが混じった声だった。目はあちこちに泳ぎ、バーバラの完璧だった相貌が崩壊していく。



「目的は何? どうしてクレアに近づいたの?」



 セシルがさらに詰め寄るが、バーバラは懸命に立っている。消え入るような声で、壊れた玩具のように何度も繰り返す。



「何のこと、ですか? わたくしは……クレアが……」



 哀れだった。

 ここまで追い詰められても、まだ巻き返せると思っていることが、さらに哀れだった。



 アイザックは何を思ったのか、ひとり部屋を後にした。しばらくして戻ってきた彼が連れていたのは、ジャックだった。



「さっき君は、池で溺れていた子犬をクレアと一緒に助けたと言ったが、それはジャックのことかな?」



 ジャックはバーバラを見た途端、即座に襲いかかった。
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