末の妹として大切にされてきましたが、 妻として溺愛されることになりました
第六章 愛する人は……②
翌朝、日の光がカーテンの隙間から差し込みはじめると、アイザックがクレアの部屋に飛び込んできた。
「クレア! 声が出なくなったなんて……。早く教えてくれれば良かったのに」
アイザックは戸惑いつつも、慈愛の籠もった柔らかな眼差しを向けてくれる。クレアは思わず口を開きかけ、彼がそれを制す。
「わかってるよ、俺に心配を掛けると思ったんだろう?」
微笑みを浮かべたアイザックは、優しくクレアの肩を抱いた。自然体で寄り添ってくれる彼の温もりに、彼女は得も言われぬ安心感を覚える。
「もちろんその通りだけど、看病はさせてくれるよな?」
アイザックの低く穏やかな声。クレアは心地よさを感じながらうなずく。
「そうこなくちゃ」
アイザックはまるでクレア専属の執事であるかのように深々と礼をすると、静かに部屋を出て朝食ののったワゴンとともに戻ってきた。
トレイには幾つものパンと湯気が立ち上るチキンスープ、そしてフルーツがのっている。ベッドの横まで来ると、アイザックは悪戯っぽく言った。
「クレアお嬢様、特製の朝食をお持ちしました」
クレアがクスクス笑うと、アイザックは安堵したような顔をした。きっと彼女をリラックスさせるために、おどけて見せたのだろう。
「さぁ食べさせてあげよう」
アイザックがスプーンを取ったので、クレアは慌てて手を左右に振った。
「遠慮しなくていいよ。全て俺に任せてくれれば」
クレアは紙を一枚掴むと、慌てて文字を書き付ける。
【声が出ないだけで、私は健康そのものですわ。食事も自分でできます。アイザック兄様に食べさせていただくなんて、とても恥ずかしいんですの】
紙を覗き込んでいたアイザックは、ちょっと残念そうにスプーンを置く。
「わかったよ」
クレアはホッとして、スプーンを手にとった。
一口スープを飲み、その滋味溢れる味わいに感動する。ホロホロになるまで煮込んだ鶏肉に、様々な野菜や香草が一体となって、複雑な美味しさを醸し出している。
パンも焼きたてで、まだ温もりが残っている。クレアが夢中になって食事をしていると、アイザックが優しく言った。
「ゆっくり食べるといい。俺はずっとここにいるから」
アイザックの言葉には、クレアが安心して寄りかかれる包容力があった。彼女はにっこり笑って、大きくうなずく。
「いい笑顔だ。きっとすぐに治るよ」
クレアの食事を見守っていたアイザックは、食べ終わったのを見計らって、彼女の部屋を快適にしつらえ始めた。
ベッドにクレアを寝かせたかと思うと、ふわふわのブランケットを手際よくかけ、クッションの位置を調整し、お気に入りの書物を積み上げて、香りの良いキャンドルを灯し……。
アイザックによって緻密に作り上げられた安らぎの空間は、まるで芸術作品のようだ。クレアもまたその一部であるかのように感じられる。
何もかも完璧だと思われたが、ふいにアイザックが部屋を出て行った。彼はロティーにそっくりな、サルのぬいぐるみを持って戻ってくる。
「よしこれで、完成だ。ロティーや他の動物たちのことが気になるだろうけど、ちゃんと世話はしているからね」
クレアが感激してロティーの縫いぐるみを抱きしめると、アイザックは満足そうにベッドの隣に腰掛けた。
「何も心配しないで、今は治療に専念するんだ」
クレアの頭を優しく撫でるアイザックの手は、彼女の全てを受け入れ、全てを与えようとする温かさに満ちていたいた。
【ありがとうございます。こんなにしていただいて、私は本当に幸せ者ですわ】
書き付けを見たアイザックは、憤慨するように言った。
「先にしてくれたのは、クレアのほうじゃないか」
クレアが目を瞬かせていると、アイザックは懐かしそうに目を細めて続ける。
「俺が落馬したとき、クレアは毎日付きっきりで看病してくれた。俺はあの時のクレアと、同じ事をしているだけだよ」
それはうんと昔のことだ。
クレアは幼く、アイザックもまだ乗馬を始めたばかりだった。にもかかわらず彼のセンスはずば抜けていて、すぐに馬を乗りこなしてしまった。
だからどこかで油断があったのかもしれない。経験の浅いアイザックは、ふいに暴れ出した馬を制御することができなかった。
馬のいななきが鋭く響き渡り、アイザックの身体が宙を舞った瞬間を、クレアはまだ覚えている。彼は固い地面に叩きつけられ、呻き声を上げた。
「アイザック兄様……!」
すぐに駆け寄ったクレアは、アイザックの右足があらぬ方に曲がっているのを見て、蒼白になった。痛みに耐えるような荒い息遣いが、彼女の胸をかき乱す。
「大丈夫ですかっ」
クレアの問いかけに、アイザックは軽くうなずいた。彼は決して動じず、その瞳には怒りにも似た感情が宿っていた。
おそらく、自らの無力さに腹を立てていたのだろう。
クレアはそのとき初めて、アイザックの強靱な意志と気迫に、尊敬の念を覚えたのだった。
「俺がベッドから身を起こし、何かしようとするたび、クレアは即座に手を差し出してくれた。あの時の俺にとって、それがどれほど嬉しかったか」
【妹ですもの、当然のことですわ】
クレアが照れながら紙に記すと、アイザックは首を横に振った。
「クレアが心優しい性格だからだよ。俺はそんなクレアが愛しいし、妻にしたいとずっと思ってきた」
アイザックの真っ直ぐな瞳を受け止めきれず、クレアはうつむいてしまう。彼はそんな彼女を見て申し訳なさそうに言った。
「すまない、困らせてしまったね。そうだマッサージでもしようか。クレアも足が早く良くなるようにって、いろいろ工夫してくれただろう?」
そう言ってアイザックは、手際よくクレアの首元や肩を揉み始めた。絶妙な力加減で、喉が楽になっていくように感じられる。
「ん、んんっ」
クレアが声を出そうとすると、アイザックが優しく彼女の肩を叩いた。
「急がなくていい。のんびりやろう」
「クレア! 声が出なくなったなんて……。早く教えてくれれば良かったのに」
アイザックは戸惑いつつも、慈愛の籠もった柔らかな眼差しを向けてくれる。クレアは思わず口を開きかけ、彼がそれを制す。
「わかってるよ、俺に心配を掛けると思ったんだろう?」
微笑みを浮かべたアイザックは、優しくクレアの肩を抱いた。自然体で寄り添ってくれる彼の温もりに、彼女は得も言われぬ安心感を覚える。
「もちろんその通りだけど、看病はさせてくれるよな?」
アイザックの低く穏やかな声。クレアは心地よさを感じながらうなずく。
「そうこなくちゃ」
アイザックはまるでクレア専属の執事であるかのように深々と礼をすると、静かに部屋を出て朝食ののったワゴンとともに戻ってきた。
トレイには幾つものパンと湯気が立ち上るチキンスープ、そしてフルーツがのっている。ベッドの横まで来ると、アイザックは悪戯っぽく言った。
「クレアお嬢様、特製の朝食をお持ちしました」
クレアがクスクス笑うと、アイザックは安堵したような顔をした。きっと彼女をリラックスさせるために、おどけて見せたのだろう。
「さぁ食べさせてあげよう」
アイザックがスプーンを取ったので、クレアは慌てて手を左右に振った。
「遠慮しなくていいよ。全て俺に任せてくれれば」
クレアは紙を一枚掴むと、慌てて文字を書き付ける。
【声が出ないだけで、私は健康そのものですわ。食事も自分でできます。アイザック兄様に食べさせていただくなんて、とても恥ずかしいんですの】
紙を覗き込んでいたアイザックは、ちょっと残念そうにスプーンを置く。
「わかったよ」
クレアはホッとして、スプーンを手にとった。
一口スープを飲み、その滋味溢れる味わいに感動する。ホロホロになるまで煮込んだ鶏肉に、様々な野菜や香草が一体となって、複雑な美味しさを醸し出している。
パンも焼きたてで、まだ温もりが残っている。クレアが夢中になって食事をしていると、アイザックが優しく言った。
「ゆっくり食べるといい。俺はずっとここにいるから」
アイザックの言葉には、クレアが安心して寄りかかれる包容力があった。彼女はにっこり笑って、大きくうなずく。
「いい笑顔だ。きっとすぐに治るよ」
クレアの食事を見守っていたアイザックは、食べ終わったのを見計らって、彼女の部屋を快適にしつらえ始めた。
ベッドにクレアを寝かせたかと思うと、ふわふわのブランケットを手際よくかけ、クッションの位置を調整し、お気に入りの書物を積み上げて、香りの良いキャンドルを灯し……。
アイザックによって緻密に作り上げられた安らぎの空間は、まるで芸術作品のようだ。クレアもまたその一部であるかのように感じられる。
何もかも完璧だと思われたが、ふいにアイザックが部屋を出て行った。彼はロティーにそっくりな、サルのぬいぐるみを持って戻ってくる。
「よしこれで、完成だ。ロティーや他の動物たちのことが気になるだろうけど、ちゃんと世話はしているからね」
クレアが感激してロティーの縫いぐるみを抱きしめると、アイザックは満足そうにベッドの隣に腰掛けた。
「何も心配しないで、今は治療に専念するんだ」
クレアの頭を優しく撫でるアイザックの手は、彼女の全てを受け入れ、全てを与えようとする温かさに満ちていたいた。
【ありがとうございます。こんなにしていただいて、私は本当に幸せ者ですわ】
書き付けを見たアイザックは、憤慨するように言った。
「先にしてくれたのは、クレアのほうじゃないか」
クレアが目を瞬かせていると、アイザックは懐かしそうに目を細めて続ける。
「俺が落馬したとき、クレアは毎日付きっきりで看病してくれた。俺はあの時のクレアと、同じ事をしているだけだよ」
それはうんと昔のことだ。
クレアは幼く、アイザックもまだ乗馬を始めたばかりだった。にもかかわらず彼のセンスはずば抜けていて、すぐに馬を乗りこなしてしまった。
だからどこかで油断があったのかもしれない。経験の浅いアイザックは、ふいに暴れ出した馬を制御することができなかった。
馬のいななきが鋭く響き渡り、アイザックの身体が宙を舞った瞬間を、クレアはまだ覚えている。彼は固い地面に叩きつけられ、呻き声を上げた。
「アイザック兄様……!」
すぐに駆け寄ったクレアは、アイザックの右足があらぬ方に曲がっているのを見て、蒼白になった。痛みに耐えるような荒い息遣いが、彼女の胸をかき乱す。
「大丈夫ですかっ」
クレアの問いかけに、アイザックは軽くうなずいた。彼は決して動じず、その瞳には怒りにも似た感情が宿っていた。
おそらく、自らの無力さに腹を立てていたのだろう。
クレアはそのとき初めて、アイザックの強靱な意志と気迫に、尊敬の念を覚えたのだった。
「俺がベッドから身を起こし、何かしようとするたび、クレアは即座に手を差し出してくれた。あの時の俺にとって、それがどれほど嬉しかったか」
【妹ですもの、当然のことですわ】
クレアが照れながら紙に記すと、アイザックは首を横に振った。
「クレアが心優しい性格だからだよ。俺はそんなクレアが愛しいし、妻にしたいとずっと思ってきた」
アイザックの真っ直ぐな瞳を受け止めきれず、クレアはうつむいてしまう。彼はそんな彼女を見て申し訳なさそうに言った。
「すまない、困らせてしまったね。そうだマッサージでもしようか。クレアも足が早く良くなるようにって、いろいろ工夫してくれただろう?」
そう言ってアイザックは、手際よくクレアの首元や肩を揉み始めた。絶妙な力加減で、喉が楽になっていくように感じられる。
「ん、んんっ」
クレアが声を出そうとすると、アイザックが優しく彼女の肩を叩いた。
「急がなくていい。のんびりやろう」