末の妹として大切にされてきましたが、 妻として溺愛されることになりました
第六章 愛する人は……⑦
「クレア! もしかして決めたの?」
玉座の間を退き、用意された客間に通された途端、セシルが叫んだ。
「お待たせして、申し訳ありませんでした」
クレアは深々と頭を下げ、ひとりひとりの顔を見つめる。
「私はお兄様方全員を愛しています。だからこそ、この選択はひどく残酷に思えました。結果的に愛する人を傷つけてしまうことになりますから」
しかし結論を先延ばしにし続けても、解決にはならない。
クレアが迷えば兄達の愛を独り占めできるだろうが、それこそ誰かひとりを選ぶよりも罪深いことだ。もうそろそろ、クレアも兄達も解放されなければならない。
「私は、お兄様方に感謝しています」
三人の兄達は、静かにクレアを見つめていた。彼らの表情には不安と期待が入り混じり、ただ彼女の言葉を待っている。
「私は本当に大切に、慈しむように愛されてきました。でも選ぶのはおひとりだけです」
クレアは目を閉じ、深呼吸をした。
ゆっくりと口を開き、わずかに震える声でひとりの男性の名前を呼ぶ。
「アイザック兄様、どうか私の夫になってくださいますか?」
「あぁもちろんだ!」
アイザックの瞳が驚きと喜びで輝き、クレアを高く抱き上げた。
「ちょ、アイザック兄様……っ!」
感動を抑えられないのか、そのまま窓際まで駆け出したかと思うと、意味もなく客間をグルグルと回り始める。
「世界一幸せな花嫁にする。必ずだ」
アイザックの言葉には確固たる力があった。
「……はい」
クレアは目に涙を浮かべてうなずいた。
アイザックがクレアに嘘をついたことはない。きっとその約束は守られるだろう。
どんなときでもクレアの意志を尊重し、見守り続けてくれたアイザックとなら、人生という荒波も乗り越えていける。そう心から信じられるのだ。
「そっか、しょうがないね」
セシルが残念そうに言い、その場に座り込んだ。気落ちしてはいるのだろうが、まるで覚悟はできていたかのような諦めの表情を浮かべている。
「セシル兄様、申し訳ありません」
「やだな、謝らないでよ。クレアは何も悪くないでしょ?」
セシルは両足を投げ出し、天井を見つめて続ける。
「それにさ、本音を言うと、ボクはクレアの夫にふさわしくないんじゃないかって、ちょっと思ってたんだよね」
「そんなこと……。セシル兄様ほど、私の歌声を認めて、愛してくださる方はいませんわ」
「うん、でもそのせいで何もできなかった」
セシルは苦い顔をして、恥を忍ぶように告白する。
「クレアの声が出なくなったときにさ。あまりにもショックが大きすぎたんだ。そんなの夫失格だよ。本当にクレアが苦しいときに、寄り添えないんだから」
クレアは何も言えなかった。
セシルが自分自身で乗り越えるべき事であり、クレアがどんな言葉を選んでも、気休めにしかならないように思われたのだ。
「成長したじゃないか、セシル」
「ブレット兄様には言われたくないよ。それより内心悔しいんじゃないの?」
セシルがからかうように言うと、ブレットは表情も変えずに言った。
「そりゃあな。でも本当にクレアを守れるのは、アイザック兄様だけだと思う」
ブレットの言葉に皆が顔を見合わせた。自ら負けを認めるような発言は、彼らしくないと思われたからだ。
「ブレット兄様が、そんなに物わかり良いと思わなかったよ」
セシルが笑いながら言い、ブレットは眉間に皺を寄せる。
「あのな、僕だって成長したんだよ。思い返してみろ、アイザック兄様はいつもクレアの気持ちを一番に考えてる」
ブレットは手のひらを天井に向け、やれやれと首を振った。
「結局僕もセシルも、アイザック兄様の愛には適わないってことなんだよ」
「ありがとう、ブレット。俺を認めてくれるんだな」
「はい。本当は最初から、わかっていたことなのかもしれませんが」
クレアはブレットの手を取り、顔を横に振った。
「それは違いますわ。私はお兄様方にプロポーズされてから、改めてそれぞれの魅力に気づかされました。そもそも優劣をつけるものではないのです」
「だったらまだ、ボク達にもチャンスはあるかもね」
セシルが勢いよく立ち上がり、アイザックに挑むような眼差しを向ける。
「おい、セシル」
「クレアはボクのことだって、愛してくれてるわけだし。夫婦になってみたら、案外思ってたのと違う、なんてこともあるかもしれない」
「俺は最高の夫になってみせるよ」
「アイザック兄様はそう言うだろうけど、判断するのはクレアでしょ?」
「そりゃそうだが」
「寄り合いやら狩りやらで、アイザック兄様は屋敷を空けることも多いもんね。クレアが寂しい思いをするなら、ボクが奪っちゃうかもしれないよ?」
セシルは楽しそうに笑い、アイザックは顔をしかめる。そんなふたりのやり取りを見て、ブレットまで意味深にうなずいた。
「確かに。まだ諦めなくてもいいのかもな」
「おいおい、ブレットまで」
ふざけあう三人の姿を見ながら、クレアはゲイリーの言葉を思い出していた。
クレアが誰を選ぼうと、息子達の仲が悪くなることはない――。
ゲイリーの言ったとおりだった。父親だから兄弟達の絆というものを、わかっていたのだろう。
クレアはエドワーズ家の強い結び付きを感じ、その一員であることを、何より嬉しく思うのだった。
玉座の間を退き、用意された客間に通された途端、セシルが叫んだ。
「お待たせして、申し訳ありませんでした」
クレアは深々と頭を下げ、ひとりひとりの顔を見つめる。
「私はお兄様方全員を愛しています。だからこそ、この選択はひどく残酷に思えました。結果的に愛する人を傷つけてしまうことになりますから」
しかし結論を先延ばしにし続けても、解決にはならない。
クレアが迷えば兄達の愛を独り占めできるだろうが、それこそ誰かひとりを選ぶよりも罪深いことだ。もうそろそろ、クレアも兄達も解放されなければならない。
「私は、お兄様方に感謝しています」
三人の兄達は、静かにクレアを見つめていた。彼らの表情には不安と期待が入り混じり、ただ彼女の言葉を待っている。
「私は本当に大切に、慈しむように愛されてきました。でも選ぶのはおひとりだけです」
クレアは目を閉じ、深呼吸をした。
ゆっくりと口を開き、わずかに震える声でひとりの男性の名前を呼ぶ。
「アイザック兄様、どうか私の夫になってくださいますか?」
「あぁもちろんだ!」
アイザックの瞳が驚きと喜びで輝き、クレアを高く抱き上げた。
「ちょ、アイザック兄様……っ!」
感動を抑えられないのか、そのまま窓際まで駆け出したかと思うと、意味もなく客間をグルグルと回り始める。
「世界一幸せな花嫁にする。必ずだ」
アイザックの言葉には確固たる力があった。
「……はい」
クレアは目に涙を浮かべてうなずいた。
アイザックがクレアに嘘をついたことはない。きっとその約束は守られるだろう。
どんなときでもクレアの意志を尊重し、見守り続けてくれたアイザックとなら、人生という荒波も乗り越えていける。そう心から信じられるのだ。
「そっか、しょうがないね」
セシルが残念そうに言い、その場に座り込んだ。気落ちしてはいるのだろうが、まるで覚悟はできていたかのような諦めの表情を浮かべている。
「セシル兄様、申し訳ありません」
「やだな、謝らないでよ。クレアは何も悪くないでしょ?」
セシルは両足を投げ出し、天井を見つめて続ける。
「それにさ、本音を言うと、ボクはクレアの夫にふさわしくないんじゃないかって、ちょっと思ってたんだよね」
「そんなこと……。セシル兄様ほど、私の歌声を認めて、愛してくださる方はいませんわ」
「うん、でもそのせいで何もできなかった」
セシルは苦い顔をして、恥を忍ぶように告白する。
「クレアの声が出なくなったときにさ。あまりにもショックが大きすぎたんだ。そんなの夫失格だよ。本当にクレアが苦しいときに、寄り添えないんだから」
クレアは何も言えなかった。
セシルが自分自身で乗り越えるべき事であり、クレアがどんな言葉を選んでも、気休めにしかならないように思われたのだ。
「成長したじゃないか、セシル」
「ブレット兄様には言われたくないよ。それより内心悔しいんじゃないの?」
セシルがからかうように言うと、ブレットは表情も変えずに言った。
「そりゃあな。でも本当にクレアを守れるのは、アイザック兄様だけだと思う」
ブレットの言葉に皆が顔を見合わせた。自ら負けを認めるような発言は、彼らしくないと思われたからだ。
「ブレット兄様が、そんなに物わかり良いと思わなかったよ」
セシルが笑いながら言い、ブレットは眉間に皺を寄せる。
「あのな、僕だって成長したんだよ。思い返してみろ、アイザック兄様はいつもクレアの気持ちを一番に考えてる」
ブレットは手のひらを天井に向け、やれやれと首を振った。
「結局僕もセシルも、アイザック兄様の愛には適わないってことなんだよ」
「ありがとう、ブレット。俺を認めてくれるんだな」
「はい。本当は最初から、わかっていたことなのかもしれませんが」
クレアはブレットの手を取り、顔を横に振った。
「それは違いますわ。私はお兄様方にプロポーズされてから、改めてそれぞれの魅力に気づかされました。そもそも優劣をつけるものではないのです」
「だったらまだ、ボク達にもチャンスはあるかもね」
セシルが勢いよく立ち上がり、アイザックに挑むような眼差しを向ける。
「おい、セシル」
「クレアはボクのことだって、愛してくれてるわけだし。夫婦になってみたら、案外思ってたのと違う、なんてこともあるかもしれない」
「俺は最高の夫になってみせるよ」
「アイザック兄様はそう言うだろうけど、判断するのはクレアでしょ?」
「そりゃそうだが」
「寄り合いやら狩りやらで、アイザック兄様は屋敷を空けることも多いもんね。クレアが寂しい思いをするなら、ボクが奪っちゃうかもしれないよ?」
セシルは楽しそうに笑い、アイザックは顔をしかめる。そんなふたりのやり取りを見て、ブレットまで意味深にうなずいた。
「確かに。まだ諦めなくてもいいのかもな」
「おいおい、ブレットまで」
ふざけあう三人の姿を見ながら、クレアはゲイリーの言葉を思い出していた。
クレアが誰を選ぼうと、息子達の仲が悪くなることはない――。
ゲイリーの言ったとおりだった。父親だから兄弟達の絆というものを、わかっていたのだろう。
クレアはエドワーズ家の強い結び付きを感じ、その一員であることを、何より嬉しく思うのだった。