末の妹として大切にされてきましたが、 妻として溺愛されることになりました
第六章 愛する人は……⑧
「おかえり」
宮殿から屋敷に戻ると、ゲイリーが出迎えてくれた。クレアは彼の広げた両手に飛び込み、その厚い胸に顔を埋める。
「お父様……!」
「ただいま戻りました」
アイザックが背筋を伸ばし、褒美として授かった剣を差し出す。ゲイリーは慎ましやかにうなずくが、その瞳の奥には我が子への賞賛が潜んでいる。
「よくやった」
ゲイリーはクレアを離すと、剣を受け取ってじっくりと検めた。王家の紋章が刻まれた剣が、手元に来る日が来ようとは思ってもいなかったのだろう。
「我が家の家宝になるな。お前達のことを、私は誇りに思うよ」
「ありがとうございます」
顔を見合わせた照れる息子達に、ゲイリーは言葉を選びながら尋ねる。
「国王陛下は何か、おっしゃっていたかい? 例えば、クレアのことで」
クレアが答えようとすると、セシルが真っ先に言った。
「宮殿で暮らさないかって。クレアにはその権利があるからね」
ゲイリーは目を見開き、動揺を隠せなかった。落ち着きなく手を動かし、視線も定まらない。クレアにとっては、それ以上ない申し出だと思うからだろう。
「それで、なんと……?」
少し青ざめた顔で呟くゲイリーに、クレアはにっこりと笑いかけた。
「もちろんお断りしましたわ。私は結婚しますから」
ゲイリーは一瞬目を細め、安堵のため息をついた。すぐに穏やかな表情になって、そっとクレアの髪を撫でる。
「では決めたんだね?」
「はい。私はアイザック兄様の妻になります」
迷いのないクレアの声を聞き、ゲイリーは満足そうに微笑んだ。
「そうか、アイザックか」
クレアは深く息を吸い込んだ。自分の気持ちをできる限り正直に伝えようと、真っ直ぐゲイリーの目を見て話し始める。
「アイザック兄様は、とても頼りになる方です。安心して全てをゆだねようと思えますの。そして何より、私を尊重してくださいます。きっとお父様とお母様のような、素敵な夫婦になれると思いますわ」
振り返るとアイザックが赤面している。ブレットとセシルは面白くなさそうな顔をしていたが、クレアの言葉に異存はない様子だ。
「クレアがその決断をするまでにどれだけ悩んだか、私はよく知っているよ。しかしそれは必要な時間だったのだろうね」
ゲイリーはクレアの肩に手を置き、信頼と愛情を込めて続ける。
「今のクレアは自信に満ちている。以前のお前にはなかったものだ。出生の秘密と向き合い、様々な困難を乗り越え、ひと回りもふた回りも大きくなった」
「ありがとうございます……」
目頭が熱くなり、クレアの声はわずかに震える。敬愛するゲイリーに認められるなんて、こんなに嬉しいことはない。
「必ず幸せになりなさい、それが私の何よりの願いだ」
ゲイリーの力強い祝福は、ディアナからの祝福でもあった。クレアの前途は幸福に満ちていると、保証されたような気持ちになる。
「さぁ、皆疲れただろう。積もる話もあるが、今日の所はゆっくり休みなさい」
ゲイリーに優しく促され、皆それぞれの部屋に戻った。
クレアは自室の扉を閉め、ほぅと息をついた。しかしベッドに腰掛けることもなく、真っ先にロティーの元へ向かう。
「ただいま、ロティー」
顎の下を撫でると、ロティーはくすぐったそうに首を振った。可愛らしい仕草を見て、クレアはやっと日常が戻ってきたのだと感じる。
めまぐるしくいろいろな事がおき、クレアは気持ちを落ち着ける暇がなかった。これからはアイザックの妻としての自覚を持ち、彼を支えていきたいと思う。
コンコンコン
ドアをノックする音がして、クレアは「どうぞ」と声を掛けた。
「ちょっといいかな?」
現れたのはアイザックだった。彼は頬を掻きながら、照れたように続ける。
「部屋に戻っても、どうにも気持ちがふわふわしてしまってね。クレアが俺を選んでくれたという実感が、まだわかないんだ」
「まぁ、あんなにハッキリ申し上げたのに、まだ伝わりませんの?」
クレアがクスクスと笑い、じっとアイザックを見つめる。
「私の夫はアイザック兄様ただひとりですわ」
「そうか、そうだよな」
アイザックは何度もうなずき、込み上げてくる喜びを抑えきれそうにない。
「嬉しいよ、俺だけこんなに幸せでいいんだろうか? なんだか弟達に申し訳ないくらいだ。クレア、弟達とは今まで通り」
「それはいけませんわ」
クレアは軽く首を左右に振り、静かに続ける。
「アイザック兄様の正式な妻になりましたら、ブレット兄様ともセシル兄様とも、ふたりきりでお会いすることはいたしません。愛し合う夫婦とは、そういうものでしょう?」
アイザックはクレアの結婚に向けた決意を知り、頭を殴られたようなショックを受けていた。彼女の方がずっと、結婚を重く捉えていたと気づいたのだ。
「クレアはそこまで、考えてくれていたんだね……」
「私はお母様のような、貞淑な妻になりたいと思っていますの。ブレット兄様やセシル兄様への敬愛と、アイザック兄様への愛は別種のものですわ」
もしかしたら長く迷い続けた事実が、アイザックを不安にさせていたのかもしれない。クレアは少し迷いながらも、思い切ってワガママな願望を口にする。
「どうかアイザック兄様も、私だけを愛して下さいましね」
「あぁもちろんだ、もちろんだとも」
アイザックはクレアに駆け寄ると、いつまでも強く彼女を抱きしめたのだった。
宮殿から屋敷に戻ると、ゲイリーが出迎えてくれた。クレアは彼の広げた両手に飛び込み、その厚い胸に顔を埋める。
「お父様……!」
「ただいま戻りました」
アイザックが背筋を伸ばし、褒美として授かった剣を差し出す。ゲイリーは慎ましやかにうなずくが、その瞳の奥には我が子への賞賛が潜んでいる。
「よくやった」
ゲイリーはクレアを離すと、剣を受け取ってじっくりと検めた。王家の紋章が刻まれた剣が、手元に来る日が来ようとは思ってもいなかったのだろう。
「我が家の家宝になるな。お前達のことを、私は誇りに思うよ」
「ありがとうございます」
顔を見合わせた照れる息子達に、ゲイリーは言葉を選びながら尋ねる。
「国王陛下は何か、おっしゃっていたかい? 例えば、クレアのことで」
クレアが答えようとすると、セシルが真っ先に言った。
「宮殿で暮らさないかって。クレアにはその権利があるからね」
ゲイリーは目を見開き、動揺を隠せなかった。落ち着きなく手を動かし、視線も定まらない。クレアにとっては、それ以上ない申し出だと思うからだろう。
「それで、なんと……?」
少し青ざめた顔で呟くゲイリーに、クレアはにっこりと笑いかけた。
「もちろんお断りしましたわ。私は結婚しますから」
ゲイリーは一瞬目を細め、安堵のため息をついた。すぐに穏やかな表情になって、そっとクレアの髪を撫でる。
「では決めたんだね?」
「はい。私はアイザック兄様の妻になります」
迷いのないクレアの声を聞き、ゲイリーは満足そうに微笑んだ。
「そうか、アイザックか」
クレアは深く息を吸い込んだ。自分の気持ちをできる限り正直に伝えようと、真っ直ぐゲイリーの目を見て話し始める。
「アイザック兄様は、とても頼りになる方です。安心して全てをゆだねようと思えますの。そして何より、私を尊重してくださいます。きっとお父様とお母様のような、素敵な夫婦になれると思いますわ」
振り返るとアイザックが赤面している。ブレットとセシルは面白くなさそうな顔をしていたが、クレアの言葉に異存はない様子だ。
「クレアがその決断をするまでにどれだけ悩んだか、私はよく知っているよ。しかしそれは必要な時間だったのだろうね」
ゲイリーはクレアの肩に手を置き、信頼と愛情を込めて続ける。
「今のクレアは自信に満ちている。以前のお前にはなかったものだ。出生の秘密と向き合い、様々な困難を乗り越え、ひと回りもふた回りも大きくなった」
「ありがとうございます……」
目頭が熱くなり、クレアの声はわずかに震える。敬愛するゲイリーに認められるなんて、こんなに嬉しいことはない。
「必ず幸せになりなさい、それが私の何よりの願いだ」
ゲイリーの力強い祝福は、ディアナからの祝福でもあった。クレアの前途は幸福に満ちていると、保証されたような気持ちになる。
「さぁ、皆疲れただろう。積もる話もあるが、今日の所はゆっくり休みなさい」
ゲイリーに優しく促され、皆それぞれの部屋に戻った。
クレアは自室の扉を閉め、ほぅと息をついた。しかしベッドに腰掛けることもなく、真っ先にロティーの元へ向かう。
「ただいま、ロティー」
顎の下を撫でると、ロティーはくすぐったそうに首を振った。可愛らしい仕草を見て、クレアはやっと日常が戻ってきたのだと感じる。
めまぐるしくいろいろな事がおき、クレアは気持ちを落ち着ける暇がなかった。これからはアイザックの妻としての自覚を持ち、彼を支えていきたいと思う。
コンコンコン
ドアをノックする音がして、クレアは「どうぞ」と声を掛けた。
「ちょっといいかな?」
現れたのはアイザックだった。彼は頬を掻きながら、照れたように続ける。
「部屋に戻っても、どうにも気持ちがふわふわしてしまってね。クレアが俺を選んでくれたという実感が、まだわかないんだ」
「まぁ、あんなにハッキリ申し上げたのに、まだ伝わりませんの?」
クレアがクスクスと笑い、じっとアイザックを見つめる。
「私の夫はアイザック兄様ただひとりですわ」
「そうか、そうだよな」
アイザックは何度もうなずき、込み上げてくる喜びを抑えきれそうにない。
「嬉しいよ、俺だけこんなに幸せでいいんだろうか? なんだか弟達に申し訳ないくらいだ。クレア、弟達とは今まで通り」
「それはいけませんわ」
クレアは軽く首を左右に振り、静かに続ける。
「アイザック兄様の正式な妻になりましたら、ブレット兄様ともセシル兄様とも、ふたりきりでお会いすることはいたしません。愛し合う夫婦とは、そういうものでしょう?」
アイザックはクレアの結婚に向けた決意を知り、頭を殴られたようなショックを受けていた。彼女の方がずっと、結婚を重く捉えていたと気づいたのだ。
「クレアはそこまで、考えてくれていたんだね……」
「私はお母様のような、貞淑な妻になりたいと思っていますの。ブレット兄様やセシル兄様への敬愛と、アイザック兄様への愛は別種のものですわ」
もしかしたら長く迷い続けた事実が、アイザックを不安にさせていたのかもしれない。クレアは少し迷いながらも、思い切ってワガママな願望を口にする。
「どうかアイザック兄様も、私だけを愛して下さいましね」
「あぁもちろんだ、もちろんだとも」
アイザックはクレアに駆け寄ると、いつまでも強く彼女を抱きしめたのだった。