末の妹として大切にされてきましたが、 妻として溺愛されることになりました
第一章 アイザックの懇篤⑦
「アイザック兄様は、それで良いのですか?」
「もちろん本音を言うなら、俺を選んで欲しいよ」
悪戯っぽくウインクしてから、アイザックは真面目な声で言った。
「でもクレアがブレットやセシルと結婚したいなら、その決断を応援したい。弟達の幸せは俺の幸せでもある。あいつらもきっと同じだと思うよ」
三人の兄達の中から、たったひとりを選ぶ――。そのことが兄弟仲を悪くするようなことはないと、アイザックは信じているのだろう。
クレアの最も大きな懸念を、アイザックはよくわかっている。彼女にとってエドワーズ家が仲違いし、壊れてしまうことが一番恐ろしいことなのだ。
「ありがとうございます。時間は掛かるかもしれませんけど、ちゃんと決めたいと思いますわ」
「あぁ、そうしてくれ。クレアの答えを楽しみに待ってるよ」
アイザックがクレアの頭をポンポンと愛おしそうに撫で、ふたりはのんびりと港を一周してから、ブレットの元に戻ってきた。
「お帰り。ラクダはどうだった?」
「とても面白かったですわ。馬より楽しいかもしれません。ブレット兄様もお乗りになったら良いと思いますわ」
「いや、僕はいいよ。乗りこなせる自信もないし」
ブレットは素っ気なく言い、籐でできた籠を差し出す。
「それよりさっき商人が来て、アイザック兄様にこれをって」
クレアが籠を覗き込むと、中にはサルがいた。手のひらにのるくらいの大きさで、リスに似た小さな顔に、クリクリとした大きな目がとても愛くるしい。スレンダーな身体を伸ばしながら、興味津々でこちらを見つめている。
「まぁ可愛らしい!」
クレアがパッと顔を輝かせると、アイザックは楽しそうに微笑む。
「気に入ってくれたようで、嬉しいよ。コイツはクレアへのプレゼントだ」
「え、私に?」
「あぁ、可愛がってやってくれ」
「本当に? 本当に良いのですか?」
感動と共に喜びが押し寄せ、クレアは胸の前で両手を組んだ。目の前の小さな生命と暮らす日々を想像するとワクワクが止まらず、期待と興奮が次々と湧き上がってくる。
「なんて素敵なんでしょう! こんな愛らしい家族を迎えられるなんて……。ありがとうございます、アイザック兄様」
クレアはサルから目が離せず、籠を掴む仕草や生き生きした表情に心を奪われている。アイザックはそんな彼女を満足そうに眺めているが、ブレットは険しい顔をしている。
「可愛いサルですが、食事や世話の仕方はわかってるんですか? 動物を家族の一員にするということは、新しい責任を引き受けることでもあるんですよ?」
「こいつは大人しくて、人懐っこい種類だから大丈夫だよ。餌は野菜や果物、あとは木の実なんかで良いそうだし、たまに散歩に連れ出せばいいらしい」
アイザックはブレットを安心させるように言い、サルを籠から取り出した。
「おっと」
サルはアイザックの腕から肩に足を掛け、クレアの胸に飛び込む。
「私と仲良くしてくれるの?」
クレアが頭を撫でようとしたところで、サルがクワッと口を開けて、彼女の指を噛んだ。
「痛っ」
「大丈夫か、クレア!」
アイザックが慌ててクレアの指先を掴み、ブレットは冷静にサルを籠に戻した。
「ほら、言わんこっちゃない。サルは噛むんですよ。慣れるまで、かなり時間が掛かるんじゃないですか」
「悠長にそんな話をしてる場合か! 早く手当てしないと」
「ご心配には及びませんわ。痛みもそれほどありませんし、大したことはないと思います」
クレアがなんでもないという風に手を軽く振ったが、アイザックは深刻な顔で言った。
「油断しちゃいけない。歯が縦に刺さると、傷口は小さくても内部で化膿しやすいんだ。前に庭師がジャックに噛まれた時、後から膿がたまって酷く腫れたんだよ。ブレット、清潔な水を早くここへ」
「わ、わかりました」
シリアスな言葉と空気に引っ張られ、ブレットが慌てて走り去る。アイザックはクレアの傷口に唇を触れさせると、何度か血を吸い出して吐き出した。
アイザックの行動はすごく自然だったし、手当の一環でしかないのに、クレアは訳もなく高まる鼓動に困惑していた。痛みよりも彼に触れられることに緊張し、甘くこそばゆい感覚が、ほんのりと全身に広がっていく。
「どうした、クレア? そんなに赤い顔をして。もしかして発熱か?」
動揺するアイザックを見て、クレアは「いえ、違います」と急いで否定したのだが、彼は心配で気が気でない様子だ。
「辛かったらすぐに言ってくれ。俺がサルなんて取り寄せなければ」
「アイザック兄様、そんなことをおっしゃっては嫌ですわ。私はあの子と家族になれて、とても嬉しいんですの。どんなに時間が掛かっても、きっと仲良くなってみせますわ」
「クレア……」
アイザックが泣き笑いみたいな顔をするので、クレアは数年ぶりに自ら彼の手を取って、とびっきりの微笑みを浮かべた。
「私、あの子をロティーと名付けようと思いますの。とっても可愛らしい名前でしょう?」
「もちろん本音を言うなら、俺を選んで欲しいよ」
悪戯っぽくウインクしてから、アイザックは真面目な声で言った。
「でもクレアがブレットやセシルと結婚したいなら、その決断を応援したい。弟達の幸せは俺の幸せでもある。あいつらもきっと同じだと思うよ」
三人の兄達の中から、たったひとりを選ぶ――。そのことが兄弟仲を悪くするようなことはないと、アイザックは信じているのだろう。
クレアの最も大きな懸念を、アイザックはよくわかっている。彼女にとってエドワーズ家が仲違いし、壊れてしまうことが一番恐ろしいことなのだ。
「ありがとうございます。時間は掛かるかもしれませんけど、ちゃんと決めたいと思いますわ」
「あぁ、そうしてくれ。クレアの答えを楽しみに待ってるよ」
アイザックがクレアの頭をポンポンと愛おしそうに撫で、ふたりはのんびりと港を一周してから、ブレットの元に戻ってきた。
「お帰り。ラクダはどうだった?」
「とても面白かったですわ。馬より楽しいかもしれません。ブレット兄様もお乗りになったら良いと思いますわ」
「いや、僕はいいよ。乗りこなせる自信もないし」
ブレットは素っ気なく言い、籐でできた籠を差し出す。
「それよりさっき商人が来て、アイザック兄様にこれをって」
クレアが籠を覗き込むと、中にはサルがいた。手のひらにのるくらいの大きさで、リスに似た小さな顔に、クリクリとした大きな目がとても愛くるしい。スレンダーな身体を伸ばしながら、興味津々でこちらを見つめている。
「まぁ可愛らしい!」
クレアがパッと顔を輝かせると、アイザックは楽しそうに微笑む。
「気に入ってくれたようで、嬉しいよ。コイツはクレアへのプレゼントだ」
「え、私に?」
「あぁ、可愛がってやってくれ」
「本当に? 本当に良いのですか?」
感動と共に喜びが押し寄せ、クレアは胸の前で両手を組んだ。目の前の小さな生命と暮らす日々を想像するとワクワクが止まらず、期待と興奮が次々と湧き上がってくる。
「なんて素敵なんでしょう! こんな愛らしい家族を迎えられるなんて……。ありがとうございます、アイザック兄様」
クレアはサルから目が離せず、籠を掴む仕草や生き生きした表情に心を奪われている。アイザックはそんな彼女を満足そうに眺めているが、ブレットは険しい顔をしている。
「可愛いサルですが、食事や世話の仕方はわかってるんですか? 動物を家族の一員にするということは、新しい責任を引き受けることでもあるんですよ?」
「こいつは大人しくて、人懐っこい種類だから大丈夫だよ。餌は野菜や果物、あとは木の実なんかで良いそうだし、たまに散歩に連れ出せばいいらしい」
アイザックはブレットを安心させるように言い、サルを籠から取り出した。
「おっと」
サルはアイザックの腕から肩に足を掛け、クレアの胸に飛び込む。
「私と仲良くしてくれるの?」
クレアが頭を撫でようとしたところで、サルがクワッと口を開けて、彼女の指を噛んだ。
「痛っ」
「大丈夫か、クレア!」
アイザックが慌ててクレアの指先を掴み、ブレットは冷静にサルを籠に戻した。
「ほら、言わんこっちゃない。サルは噛むんですよ。慣れるまで、かなり時間が掛かるんじゃないですか」
「悠長にそんな話をしてる場合か! 早く手当てしないと」
「ご心配には及びませんわ。痛みもそれほどありませんし、大したことはないと思います」
クレアがなんでもないという風に手を軽く振ったが、アイザックは深刻な顔で言った。
「油断しちゃいけない。歯が縦に刺さると、傷口は小さくても内部で化膿しやすいんだ。前に庭師がジャックに噛まれた時、後から膿がたまって酷く腫れたんだよ。ブレット、清潔な水を早くここへ」
「わ、わかりました」
シリアスな言葉と空気に引っ張られ、ブレットが慌てて走り去る。アイザックはクレアの傷口に唇を触れさせると、何度か血を吸い出して吐き出した。
アイザックの行動はすごく自然だったし、手当の一環でしかないのに、クレアは訳もなく高まる鼓動に困惑していた。痛みよりも彼に触れられることに緊張し、甘くこそばゆい感覚が、ほんのりと全身に広がっていく。
「どうした、クレア? そんなに赤い顔をして。もしかして発熱か?」
動揺するアイザックを見て、クレアは「いえ、違います」と急いで否定したのだが、彼は心配で気が気でない様子だ。
「辛かったらすぐに言ってくれ。俺がサルなんて取り寄せなければ」
「アイザック兄様、そんなことをおっしゃっては嫌ですわ。私はあの子と家族になれて、とても嬉しいんですの。どんなに時間が掛かっても、きっと仲良くなってみせますわ」
「クレア……」
アイザックが泣き笑いみたいな顔をするので、クレアは数年ぶりに自ら彼の手を取って、とびっきりの微笑みを浮かべた。
「私、あの子をロティーと名付けようと思いますの。とっても可愛らしい名前でしょう?」