悪 狐
分からない。
私には大人の考えることが理解できない。
「前に、あの方と保月先生が話しているのを見ました。私には見せない保月先生の笑顔に嫉妬が芽生えたんです。大内先生、正直に答えました。教えて頂けますか?」
私は先生を見上げて、見つめたまま繋がれた手を振り払う。
「そうだね、君は俺にキスできる?情報料だよ。」
担任の先生が、生徒の私に情報料だと言ってキスを求める。
その理由は何だろうか。
「出来ません。あなたは私の信頼を裏切って、はぐらかした。」
遠回しに、私を試すような真似をして。
大人って狡い。
睨んだ私に苦笑を見せて、窓の外に視線を移動させる。
「ごめん。彼女は大学での先輩だよ。俺と柚瑠……保月先生は同期だ。」
憂いある表情の横顔を見ていると、私の中に不安が生じる。
きっと大内先生は、あの女性が好きなんだ。
そして保月先生と仲が良いことに嫉妬している。
私が感じたように……
長い付き合いだからこそ、それ以上に不安なんだ。
「先生……」
話しかけたけれど言葉が続かない。
沈黙を破る様に、机に置いた携帯が着信を知らせた。