悪 狐

先生は私に視線を向けて苦笑。
待っていたお母さんからの連絡に、助けられたような気がする。

「私、母が迎えに来たので帰ります。先生、さようなら。」

「うん、気を付けて。さようなら。」

背を向け、逃げたのは私。

聞きたいけれど怖くて勇気が出ない。傷つきたくない。
保月先生に知られると終わってしまう私の恋は脆いから。

それからの私は、臆病にも保健室には近づかなくなった。
何を察したのか、大内先生は担任として気遣う程度で私に深くは尋ねない。

心は寂しさを増やしていくのに、体は弱さとは逆に安定を見せる。
病院での治療が効いているのか、薬が自分に合っているのかな。
本来なら喜ぶべきなのに、自分の気持ちが理解できずに戸惑う。


偶然は残酷にも、私に現実を見せつける。

あの女性と保月先生が廊下で談笑。
生徒が通り過ぎながら挨拶し、振り返って噂話。
先生たちがお似合いだと、聞こえる言葉に胸が痛んだ。

私には見せない笑顔。
内容は分からないけれど、優しい声がする。

自分が弱った時に聞いたのと同じ。
私の通常時では聞く事の出来ない声と笑顔を。


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