悪 狐
その場を離れ、淡い恋心を捨てようと決意した。
保月先生にとって、私は憎しみの対象でしかない。
係わらずにいれば、あの人と穏やかに過ごせるのだから。
「岩端。保健室に行って、今までの記録を確認してくれるか?」
私が出した書類との照らし合わせに必要なのだと言うけれど。
「大丈夫、あいつは不在だから。」
……嘘つき。
そっと入った保健室。
物陰に潜んでいた保月先生に捕まったけれど、どこが不在なの?
怒りの見える表情。
そんなの見たくなかったのに。
「先生は私が嫌い?」
掴んだ手を振りほどこうと抵抗するけど、びくともしない。
「今更だろ。」
苛立ちを伝える言葉。
腹が立っているのは私だって同じ。
「それなら何故、私に触れようとするの?」
保健室の小さな空間。
養護教諭という立場で生徒の私に特別な感情を示す。
それは愛情ではなく敵意。
私を通して見ている人に対する感情。
「嫌がらせだよ。アイツが大事にしている君を穢せば、どう思うのか考えただけで興奮する。君は俺を恨め。そして、こんな俺の身近に居ると知りながら何もしなかったアイツも憎めばいい。」