悪 狐
恋の自覚
「先生、何か私に隠しているの?」
遠回しに訊いた言葉が、起爆剤になるなんて。
考えもしなかった。
先生の後姿に、自分の戸惑いも誤魔化せるだろうと出した言葉。
先生の表情など分からないはずなのに、感じるのは触れてはならないという緊張。
私に隠している事がある。
それが触れてはならない一線。
「知りたいか?」
振り返らず、作業を続けながら冷たく感じる先生の声音。
知りたいと言ってはいけない。
では、何と答えればいいの?
「……今は、まだ」
自分の顔が引きつっているのが分かる。
声も小さくて、曖昧な返事をするしか出来ない。
そんな私の何を読み取ったのか、先生はゆっくりと視線を向ける。
冷めたような視線。
凍えるような寒さが背を通り、言葉を失ってしまった。
手に持っていた物を机に置き、私の方に近づいて来る。
視線を逸らそうとしても、体が硬直したように動かない。
目は先生の動きを全て捉えたまま。
「くく。自分から聞いただろ。何を知っているんだ?言えよ。」
何を知っているか……
先生の隠している事は、私が知り得る情報なの?
「知らない。何も。」
首を振って、吐き出すように言い放つ。
涙目なのか、視界は霞んで先生の姿はあやふやなのに、近づく距離で恐怖に包まれる。
体は震え、目前に立つ先生を見上げて涙が零れた。
「ちっ。イライラする。……そうだな。今、何かあったとしても……お前の体力なら、ここには来ないわけにはいかないだろう?屈辱を与えてやるよ。来る度に……な。」