小夜啼鳥

縮まる距離を広げようと、彼に背を向けて走り出す。
人波をかき分け、手荷物や一栄を残して、私は必死に逃げた。

だけど逃げ切れるはずもない。

校舎の端。
壁の行き止まりに阻まれ、手首をつかまれて、力強く引き戻される。

「いや、離して!」

抵抗して睨みつけると、やはり追いかけてきたのは藤九郎だった。

分かっていた。予測していた。
だけど。今、何が起きているのか。

時間の流れも止まったかのように、思考は停止。
唇には柔らかな感触。

目に入る景色はなく、視界の範囲を狭めるのは見慣れた顔。
それが間近にあって私の口にキスをしているわけで。

奴は閉じていた目を少しずつ開いていく。
細く睨んだような目で私を見つめ、口を解放するどころか強く押し当てるように角度を変えた。

私たち、付き合ってもいない。
恋人じゃないのにキスをするのって、どうなの?

口元が少し離れ、私の唇には熱のこもった奴の舌が触れた。
流されている事に気付き、私は右手の拳で奴の腹に一撃。
追撃に左手で、奴の頬に平手。

「ふふ。高いわよ、私に手を出すなんて。執事の立場で、許されると思わないでね!」

「痛いなぁ。くくっ……俺を執事と認めたの?」


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