奪う
 彼はキウイの酎ハイに目を遣る。適当であったとしても自分の意思で受け取ってしまった以上、今更飲まないと断るのもおかしな話だ。金蔓の件に関して確認するべきことをしたらすぐに帰宅する予定だったが、この調子では無理そうだ。どうもカナデといると予定が変わってしまうことがある。予定通りにしようと思えばできるものの、そこまでして貫くほど重要なことではなかった。彼は手元でカナデと同じ軽快な音を響かせた。

「ミコトさん、飲む前に乾杯しませんか?」

「何の乾杯ですか」

「金蔓殺害の成功を祈願しての乾杯です」

「誰もしたことのないような乾杯ですね」

「俺とミコトさんだけの秘密ですよ。乾杯」

 カナデがぶどうのパッケージの缶を掲げた。彼も乾杯と唇を動かし、カナデに倣った。缶同士を軽く触れ合わせてから酎ハイを口にしようとした直前で、彼ははたとあることに気づいた。二人の共通認識であるためか、彼もカナデも金蔓のことを当たり前のように金蔓金蔓と呼んでしまっているが、それなりに重要な金蔓の本当の名前を教えてもらっていない。彼は一足先にぶどうの酎ハイを飲んでいるカナデに尋ねた。

「カナデさん、金蔓の名前を教えてもらってもいいですか」

「ああ、俺まだ言ってなかったですね。すみません。金蔓の名前はユウコです」

 彼は礼を言い、アオイやイツキと同様に、ユウコ、と口の中で呟いた。ユウコ。ユウコ。彼はユウコを殺しに行く。いくつもの穴ぼこを開けて殺す。ユウコの人生はもうすぐ終わる。

 持ってきたあたりめを開封して早速つまみ始めているカナデを前に、彼は想像で作ったユウコの身体に無数の穴を開ける妄想をしながら酎ハイを喉に通した。今日はもう帰れなかった。
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