奪う
「腹はもう痛くないですか」

 後輩の頭のてっぺんをぶすぶすぐさぐさ突き刺しつつ、実際に他人の手によって刺された後輩の腹のことを彼は尋ねた。感謝されてもスルーしたが、冷たい先輩なりに気遣っているふりをする。ふりをしながらひたすら刺し続ける。ぶすぶすぐさぐさ。刺し殺したい。ぶすぶすぐさぐさ。もうすぐ金蔓ことユウコを殺せる。ぶすぶすぐさぐさ。それまでは我慢だ。ぶすぶすぐさぐさ。

 頭蓋骨が剥き出しとなり、そこから大量の血を噴出している後輩が顔を上げた。腹と言われ腹に触れ、腹に視線を落とした。彼の脳内で血塗れになっている後輩は、ピンと張り詰めていた糸を緩めた。あっという間に語尾が崩れた。

「腹は特に痛くはないっすけど、なんかちょっと微妙に変な感じがするような気がしないでもないっすね」

「そうですか。なんかちょっと微妙に変な感じがするような気がしないでもないですか」

「めっちゃ馬鹿にしてないっすか?」

「していません」

「本当っすか?」

 ぐっと距離を縮められ、顔を覗き込まれる。彼の無表情の顔から必死に真意を読み取ろうとしているかのようだった。

 彼は僅かに顔を背けるも、食い入るように凝視する喧しい存在は視界の端に映り込んだままである。心を読まれることはないだろうが気分は良くなかった。両目を順番に突き刺しておいた。

 心理的にも物理的にも一定の距離を保ちたい彼は、傷は癒えたもののなんかちょっと微妙に変な感じがするような気がしないでもないという後輩の腹を親指で強く押した。当時の刺突された感触が蘇ったのか、後輩が嫌厭するように小さな呻き声を漏らしながら引き下がった。拳で殴らなかったのは、指くらいのサイズの方が刃物に近いと思ったからだった。
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