彼がくれたのは、優しさと恋心――司書志望の地味系派遣女子、クールな弁護士にこっそり愛されてました
「この後すぐですか? どのくらいの時間ですか?」
「ああ、十二時半から。二時間くらい」
「もちます?」
「もたせる」

 もたせるって……二時間も? 私なら絶対無理だ……そう思ったら、ほとんど無意識におにぎりを差し出していた。

「よかったら、これどうぞ」
「え?」

 驚いた表情の先生。それはそうだ、突然おにぎりを、しかもアルミホイルに包んであるいかにも手作り――。

「……いいの? 助かる、ありがとう」
「あっ、いえ、その――具は昆布の佃煮とチーズで――変ですよね、私好きなんですけど――やっぱり返してください!」

 急に恥ずかしくなってしまった。よく知りもしない雨宮先生に手作りのおにぎりを食べさせようだなんて。大胆にもほどがある。先生だって困るだろう。
 ところが。

「はは」

 先生は楽しそうに笑った。

「返さない。ありがたく頂く。野崎さんは、まだ昼休み残ってるだろ。もう少しそこでゆっくりしてから戻りなよ。あと、家のことだけど。シェアハウスにしたら、いいかもしれない。その気があったら相談に乗る。おにぎりのお礼」
「シェアハウス?」

 思わず聞き返してしまった。もちろん知っているけど、家をシェアハウスにって、どういうこと? 私が他人と一緒に暮らすの?
 けれど先生は答えることなく、微笑んだだけだった。

「じゃ、俺は行く。おにぎり、ごちそうさま」

 先生はそれだけ言い残すと、くるりと背を向け、ルーフガーデンの出口に向かって歩いて行った。振り返らずに上げた片手が、なんだか雨宮先生らしいなと私は思った。





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