彼がくれたのは、優しさと恋心――司書志望の地味系派遣女子、クールな弁護士にこっそり愛されてました
 数日後。

「ただいまー」

 帰宅すると、玄関に母と私以外の靴があった。
 廊下の奥のキッチンのドアが開き、出て来たのは母と塚本さん。近所のアパートに一人で暮らすこの人もまた、母の俳句仲間。今日みたいに母が有休の日には、二人でお茶を飲みながら句をひねったりしている。キッチンから出てきたということは、晩御飯も食べていくのかな。開いたドアから、じゅうじゅうと何かが焼ける香ばしい香りが漂ってきている――きっと塚本さんの得意料理・餃子だ。

「お帰り」
「お帰りなさい、莉々ちゃん。おじゃましてます」
「ただいま。いらっしゃいませ、塚本さん。餃子?」
「うん、そう。ビールも持ってきたから、みんなで飲みましょ」

 もう八十歳になる塚本さんは、とても元気だ。ほっそりしていて上品なのに、お肉とお酒を好むというギャップが、私は好きだ。一緒にいるとこちらまで元気になる。

「乾杯!」

 焼き立ての餃子を囲み、私たちは乾杯した。
 皮はかりっとして、中の餡はジューシー。

「ほんと、塚本さんの餃子はおいしいわぁ」

 母がうっとりと言う。

「最高です」

 私も追随する。
 三人でおしゃべりしながら食べて飲み、あっという間に餃子はなくなった。そうして〆のチャーハンを食べている時。

「ねえ莉々ちゃん、この家、シェアハウスにするっていう話だけど。私、住んじゃだめかな?」

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