彼がくれたのは、優しさと恋心――司書志望の地味系派遣女子、クールな弁護士にこっそり愛されてました
 塚本さんが思いがけない発言をし、私はスプーンを落としそうになった。
 母を見ると、「えへ」と肩をすくめて笑うではないか。

「……あの、塚本さん、その話はなくなったというか」

 元からなかったんですよ、と言おうとした時だった。

「私、アパートの更新時期なんだけど、断られちゃって……。高齢の一人暮らしで子どももいないから――だからここに住めたらすごく助かるんだけど、どうかしら――。お家賃、八万円までなら払える。いえ、もっと高くても。年金暮らしだけど、貯金はけっこうあるの。夫がしっかり遺してくれたから」
「……」

 私が何も言えずにいると、塚本さんは続けた。
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