彼がくれたのは、優しさと恋心――司書志望の地味系派遣女子、クールな弁護士にこっそり愛されてました

5.ライブラリ

「どうぞ」

 室内から聞こえた低めの落ち着いた声。
 ドアを開けると、窓を背に机に座る雨宮先生は、書類の山に囲まれ、デスクトップのキーボードを叩いていた。
 普段は上げている前髪が少し下がっている。ネクタイはせず、シャツのみ。
 この様子は、徹夜明けだ。

「あの――すみません、お邪魔して。お忙しいですよね、失礼します」

 私は思わず遠慮したのだが、「待って。今終わるから」と雨宮先生がパソコンの画面を見つめたまま言ったので、そのまま待つことにした。
 少しして、手を止めてふっと小さく息を吐いた先生は、私に視線を向けた。

「家の件?」
「――はい、あの――」

 私は言いよどんだ。まだ迷いがある。
 けれど雨宮先生が先を促すような視線で私を見つめるので、おずおずと続けた。

「近所に『住みたい』と言ってくれる方が現われて、それで」
「それで?」
「シェアハウス、やってみようかと」

 ああ、言ってしまった。

「そう」

 雨宮先生は表情を変えずに小さくうなずくと、席を立った。
 そして私の横をすり抜け、ドアを開ける。

「先生、どこへ?」
「ライブラリ。ついて来て」
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