彼がくれたのは、優しさと恋心――司書志望の地味系派遣女子、クールな弁護士にこっそり愛されてました
 ライブラリのドアを開けると、司書の林原さんはもう出勤していて、カウンターで作業中だ。

 林原さんは不思議そうな顔をしてこちらを見たが、私が「おはようございます」と挨拶すると、すぐに品のいい笑顔で「おはようございます」と返してくれた。

 アラフォー子持ち・美魔女の林原さんは、私の憧れだ。落ち着いた彼女の仕事ぶり、そしてきちんと整ったライブラリを見るたびに、私も林原さんみたいな司書になれたらいいのにな、と思う。

 雨宮先生はライブラリの奥へと進み、不動産関係の図書が並んでいる棚の前で立ち止まった。
 こうして近くに立つと、先生の背の高さを実感する。百六十ある私の視線が肩くらいだから、たぶん百八十くらいだ。左手の薬指に、指輪はしていない。ということはまだ独身なのだろうけど、やっぱりお付き合いしている人は、いるのかな。

 私がちょっと余計なことを考えた間に、先生は手早く数冊の本を抜き出した。
 そして本を左手に抱え、「よし、これくらいでいいだろ」と、本棚をざっと一瞥して呟くと、私の方を向いた。

「まずは、これらを読んで」

 積み重ねた五冊を差し出され、私は両手を出して受け取った。
 読むの? これ全部? そう思いつつも、雨宮先生の鋭い視線に気おされて、返事をしてしまう。

「……はい」
「読んだら、契約書を作ってみて」

 契約書、なるほど――え?

「作るって、私が?」
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