彼がくれたのは、優しさと恋心――司書志望の地味系派遣女子、クールな弁護士にこっそり愛されてました
「クライアント、来た?」
「はい。会議室Aです」
「わかった。すぐ行く」

 雨宮先生は席を立つと、ハンガーにかけてあったスーツの上着を羽織ってボタンを留めた。そして、素早くネクタイを直す。
 サックスブルーのシャツに濃紺のネクタイ、ダークグレーのスーツは、背が高く、理知的で整った顔立ち、そして艶のある黒髪の雨宮先生によく似合う。そして、ものすごく仕事ができそうに見える――というか実際、雨宮先生は敏腕弁護士として評判だ。

「何か――ネクタイ、曲がってる?」

 思わずその仕草を見つめていた私は、焦った。

「はい、ええと、大丈夫。真っすぐです!」

 私の声が響く。雨宮先生がふっと笑ったように見えたのは、気のせいだったろうか。

「ありがとう。今日は残業、申し訳ない」
「いえ」

 雨宮先生について、私も部屋を出た。

「所要時間は二時間くらいかな――もしかしたら延びるかも。飲み物は、開始直後と、一時間後にも頼む。集中力が切れてくるころだから」
「承知しました」
「じゃ、よろしく」

 雨宮先生は、エレベーターホールへと続くドアを開けた。
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