彼がくれたのは、優しさと恋心――司書志望の地味系派遣女子、クールな弁護士にこっそり愛されてました
クロージングには三時間かかった。
後片付けをして、事務所を出たのが午後十時前。家に着いたのは十時半で、空腹は最高潮だった。
「怜士さんとのお食事、残念だったね」
パジャマ姿の母が、食卓の向かいで頬杖をついている。
「うん。でもまあ、怜士には、会おうと思えばいつでも会えるから」
私は、母が用意してくれたお茶漬けをかきこんだ。
「莉々が怜士さんみたいに真面目でいい人と出会えて、ほんとよかった」
「どうしたの、急に?」
母の声に何か引っかかるものを感じて、私は箸を止めた。
たしかに怜士は「真面目でいい人」だけど。
大手商社・花菱商事の法務部員で、仕事はきっちり、誰にでも穏やか。私が担当している高橋先生のクライアントで、それが縁だった。今は担当弁護士が変わり、雨宮先生のクライアントになっている。
お付き合いを始めてからずっと穏やかな日々が続いて、先週、私たちは婚約したばかり。とはいっても、まだ二人の間だけのことで、両方の親に挨拶はしていないのだけれど。今日はその日取りを相談するはずだった。
婚約を報告したら、お母さん、喜んでくれるだろうな――そう思った時だった。
「あのね、莉々。お母さん、結婚することにした」
母が唐突に言った。
後片付けをして、事務所を出たのが午後十時前。家に着いたのは十時半で、空腹は最高潮だった。
「怜士さんとのお食事、残念だったね」
パジャマ姿の母が、食卓の向かいで頬杖をついている。
「うん。でもまあ、怜士には、会おうと思えばいつでも会えるから」
私は、母が用意してくれたお茶漬けをかきこんだ。
「莉々が怜士さんみたいに真面目でいい人と出会えて、ほんとよかった」
「どうしたの、急に?」
母の声に何か引っかかるものを感じて、私は箸を止めた。
たしかに怜士は「真面目でいい人」だけど。
大手商社・花菱商事の法務部員で、仕事はきっちり、誰にでも穏やか。私が担当している高橋先生のクライアントで、それが縁だった。今は担当弁護士が変わり、雨宮先生のクライアントになっている。
お付き合いを始めてからずっと穏やかな日々が続いて、先週、私たちは婚約したばかり。とはいっても、まだ二人の間だけのことで、両方の親に挨拶はしていないのだけれど。今日はその日取りを相談するはずだった。
婚約を報告したら、お母さん、喜んでくれるだろうな――そう思った時だった。
「あのね、莉々。お母さん、結婚することにした」
母が唐突に言った。