彼がくれたのは、優しさと恋心――司書志望の地味系派遣女子、クールな弁護士にこっそり愛されてました

9.コーヒー

「まさかオネエが来るとは」

 応募者四人すべてが内見を終えた後、雨宮先生が苦笑した。

「私も驚きました。でもいいかもって」
「野崎さんも? 俺もいいと思った。清潔感があったし、男手があると、ちょっとした時に助かるから。力仕事とか」
「そういう理由ですか? 力仕事も私、頑張りますよ。大家ですから。私が井上さんをいいなと思ったのは、井上さんが一番、この家を気に入ってくれたからです」

 井上さんは、「わあ、シックで素敵な部屋。庭が見える!」「ステンドグラス、素敵!」「ガーデニング、もしかして私も手伝えたりします?」など、見せた場所すべてについて好意的なコメントをくれ、それが決してわざとらしくなく、私は好感を持ったのだ。

「そうか――野崎さんがそう思うなら、決まりだな」

 雨宮先生が万年筆で、間取り図の塚本さんの部屋の隣に、「井上」と書き入れた。

「他の二人は、島内さんと林さんにします」
「ああ、妥当だと思う」

 島内さんは四十歳独身、大学の非常勤講師兼翻訳家。応募理由は、「職場でも家でもほとんど一人でいるのに嫌になってしまって。シェアハウスなら、自然と交流できるかなって。あと、どうしても部屋に閉じこもりがちなので、一軒家という広い空間に魅力を感じました。お庭もあるし」――理路整然。この人なら大丈夫だろう。

 林さんも独身で、二十八歳、会社員。応募理由は、「将来のために節約したいので、相場より安い六万円の家賃は魅力。通勤に便利だし、一度シェアハウスって住んでみたかったんです」――大人しめの印象で、なんとなく私と性格が合いそうだ。
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