彼がくれたのは、優しさと恋心――司書志望の地味系派遣女子、クールな弁護士にこっそり愛されてました
「良かったな、今日一日で決まって」
「はい。朝からずっと、ありがとうございました。コーヒー、淹れましょうか」
「――俺が淹れようか? 入居許可連絡、まだだろ?」
「ええっ⁉」

 私は驚いて、目を見開いてしまった。
 先生が笑う。

「驚き過ぎ。俺だってコーヒーくらい淹れられる。キッチン、借りるよ」

 立ち上がった先生は、「窮屈だな」とつぶやいて、スーツのジャケットを脱いだ。それを椅子の背にかけ、ネクタイをゆるめて外すと、きちんと畳んでスラックスのポケットに収め、袖をまくる。その仕草に私はどきどきした。

「……ありがとうございます。コーヒーセット一式は」
「戸棚の一段目だろ。この間来たときに淹れてくれたから、覚えてる」

 そう言い残し、先生はダイニングのドアを開け、隣のキッチンに入って行った。

 開けたドアの向こうで、先生がヤカンに水を入れている。
 シャツの背中が少し丸まり、ミルを両手で包むように持った。
 がりがり、と豆を挽く低い音。

 なんだか私は、そわそわした。
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