彼がくれたのは、優しさと恋心――司書志望の地味系派遣女子、クールな弁護士にこっそり愛されてました
「あ――」

 思わず声が出る。
 この女性、私でも知っている。

 何年前だったろう、有力議員とのダブル不倫で世間をにぎわせたスキャンダルだ。たしかこの女性議員は、元弁護士。

「野崎さんも覚えてます? すごい話題になりましたもんねー。名前でわかる通り、当時、雨宮先生の奥様で。二人は学生結婚で、弁護士になり、でも奥様はJ党にスカウトされて参議院議員に。その後のスキャンダルで、雨宮先生とは離婚」

 そんな過去が――。

「でも二人、よりを戻しそうですよ。元奥様、頻繁に先生にメール送ってきてます。私、先生のメール見られるんで――それにこの際だから、野崎さんのために言っちゃいますけど、私が告白した時に先生、言ったんです。『好きな人がいるから』って」

 香奈ちゃん――雨宮先生のこと、好きだったの?

「ま、そのおかげで私は怜士さんに目が向きましたし、結果オーライですけどね。そもそも図々しいんですよ、野崎さん。派遣の分際で雨宮先生を狙おうだなんて」

 そこまで言うと、すっきりしたのだろうか。香奈ちゃんは「あはは」と大きな声で笑い、くるりと背を向け、ルーフガーデンを出て行った。

 取り残された私は、茫然と彼女を見送るしかできなかった。








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