彼がくれたのは、優しさと恋心――司書志望の地味系派遣女子、クールな弁護士にこっそり愛されてました
「おにぎり、すごく旨かった。いつも意外性があって楽しい。まるで野崎さんの」
「先生」

 私の気持ちになど気付くはずもなく、いつもの調子で話す先生を、私は遮った。

「――何?」

 先生が不思議そうに私を見る。
 ああ。
 スーツ姿に前髪を上げた先生は、すごく素敵だ。そんな先生がすぐそばで、真っすぐな視線を私に向けている。

「あっ、あのっ」

 ばくばくする胸を押さえつけ、振り絞るように声を出す。

「すみません、私。先生に何度もおにぎり――ご迷惑でしたよね、調子に乗ってしまって。家のことも」
「野崎さん?」

 先生が香奈ちゃんに言った「好きな人」って、やっぱり元奥さんなのだろう。
 先生は、冷たく見えて優しい。寛容だ。
 だからきっと、元奥さんを許しているのだ。だって、結婚するほど好きになった人だもの。香奈ちゃんが言った「元奥様、頻繁に先生にメール送ってきてます」が何よりの証拠だ。

 そこまで考えたら耐えきれなくなって、私は「すみません、失礼します」と頭を下げると、急いでコーヒーマシンに残ったカートリッジを片付、カフェスペースを後にした。
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