彼がくれたのは、優しさと恋心――司書志望の地味系派遣女子、クールな弁護士にこっそり愛されてました
「何ですか?」
「何?」

 また。

「……」
「……」

 今度は沈黙。
 先生と私は見つめ合ったが、やがて二人とも笑ってしまった。

「先にどうぞ」

 先生が促す。

「先生こそ、どうぞ」
「いや、野崎さんから」

 それで、私は話し始めた。

「この家をシェアハウスにして本当に良かったです。相続にかかるお金のこととかを知ったときには、本当にどうしようかと思いました。でも、四人の入居と私の貯金で何とか賄えます。だからシェアハウスの提案をしてくれた雨宮先生には、感謝しかありません。何より、父の家に住み続けられるのが嬉しくて。今までたくさん、本当に――」

 ちゃんと最後まで言おうと思っていたのに涙が溢れてきて、私は焦ってお辞儀をした。

「ありがとうございました」
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