彼がくれたのは、優しさと恋心――司書志望の地味系派遣女子、クールな弁護士にこっそり愛されてました
「え?」
「野崎さん。笑わないで聞いて――事務所では有名な話だから野崎さんの耳にも入っていると思うんだけど――俺、バツイチで」

 何を言い出すんだろう、先生。

「元妻とは学生結婚だった。押し切られる形で付き合って結婚して、仕事も、大手志向だった彼女の希望をきいて選んで――って、何言ってんだろ、俺――」

 先生はそこまで早口で言うと、また黙った。

 訪れる沈黙。

 気まずいけれど、でも、それでもいい。先生と二人でいられる時間が、少しでも長く続けばいい――私は思った。そして実感する。私、こんなに雨宮先生のことを好きになっていたんだ。

 どのくらい時間が経っただろう。先生がまた口を開く。

「この年になってこんなことする羽目になるとは思ってもみなくて――でも言わないとな――告白って、されるばかりでしたことがなくて。ああ、緊張する――」

 先生は真っすぐに私を見つめた。

「好きだ」
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