あなたの子ですが、内緒で育てます
 わたくしが嫌みを口にすると、セレーネはにっこり微笑んだ。

「ルチアノには、私も負けることが多々ありますの。私より、しっかり育ってくれて嬉しいですわ」

 誰の目から見ても、二人の差は歴然としていた。
 ちょうど、ルドヴィク様も駆けつけてきたようで、わたくしの味方が増える。
 そう思っていた。

「ルドヴィク様っ……!」

 けれど、ルドヴィク様は冷めた目で、床に寝転んで暴れるロゼッテを眺めただけだった。
 一部始終を見届けると、顔を背け、無言で去っていく。

「な……なぜ! わたくしを庇ってくださいませんの……?」

 遠ざかる背中を呆然と見つめた。
 ルドヴィク様は一度も振り返らなかった。

「お父様ぁ?」

 ロゼッテも、なにが起きたかわからず、キョトンとした顔をした。
 いつもように、ルドヴィク様が生意気なルチアノと、教師、周囲の者たちを罰してくれるはずだったのに……

「ロゼッテ! 早く起きなさいっ!」
「ふ、ふぇっ……」

 わたくしが叱ると、ロゼッテは再び泣きそうな顔をした。
 そんなロゼッテに、兄のようにルチアノが話しかける。
< 102 / 190 >

この作品をシェア

pagetop